きみは彩なす色硝子のように

□第参話:ことじの姫と五鋩
1ページ/7ページ


 朝音が和に召喚されて七つの月が昇った。
 ことじの姫として五鋩に会わなければならなかったが、過剰なほど朝音の体調を気遣う司と、日が悪いという理由からなかなか実現出来ずにいた。

 しかし、それら理由は異邦人の彼女に、賀茂家の屋敷内だけだが和という世界を理解するためのよい時間を与えた。

 日が経つのと比例して、異世界に来たという実感が強くなる。

 衣装、生活、屋敷、調度品、それらのどれも一見平安時代によく似ている。しかし、朝音が日常を送っていた世界には無い髪色の人々が朝音の目を楽しませた。
 金髪はもとより、赤、緑、青……。濃淡さまざまな髪色は、絵の具のパレットのようだった。

 召喚された日以来、朝音はまさに『姫』の待遇だ。着たときは制服だったが、今は小袿。司は最初、朝音に十二単を用意していたが、その動きづらさと重さに半日と持たなかった。以来、桜色をベースにした小袿を着ている。なぜ桜色ばかりなのかと朝音は司に尋ねたが、司いわく『桜が姫様の初々しさを引き立てる色』ということだった。
 屋敷の者達は、女房やその他の使用人も皆朝音を『朝音姫様』と呼び尊ぶ。
 司は公務多忙のようで、朝早く屋敷を出、闇夜と共に戻る事もしばしばだった。しかし、時間の空きを作っては、昼に顔を出しに一時帰宅してくれた。
「もっとお側にいさせていただきたいのに。」
 なかなか朝音との時間を取れない司がある夜申し訳なさそうに言ったが、朝音にはその気持ちだけで嬉しかった。
 屋敷の者は皆気がよく、和について右も左も分からない彼女を支えてくれる。生まれた世界ではご無沙汰だった人の暖かさに触れ、朝音がこの場に馴染むのにそう時間はかからなかった。
 司は最初、和が危険な状態にあると話した。だが、ことじの姫である朝音が来たことが幸いしたのか怨霊の類の噂を屋敷内で聞くことはなかった。
 今まですっかり忘れていた穏やかな時間が過ぎる。散る桜のひとひらすら愛でることのできる心の余裕。雅やかな空気に浸っていると、まるで生まれた頃から姫であったような錯覚を覚える。


次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ