きみは彩なす色硝子のように

□第壱話:天翔る声の誘い
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 薄暗らに浮かぶ緋色の光と揺らめく影。

 影は1つではなかった。影達は蝋燭の灯を囲み、草木がそよぐよう声で囁き合う。

「その話は本当か?」
 影の1つが、低く唸るように言った。
「都の者達が『あの御方』を見たと申しております。」
 もう1つの影の声は震えている。
「あぁ、稀なる才恵まれた御方がようやく帝に就かれて久方の平安の世が来ると期待していたというのに。」
「……いや、まだ事実か分からん。謀反を企てる者が流した噂かもしれぬ。」
 影の主は皆男らしく、低い声はどれも恐れと戸惑いでひやりとする闇夜の空気を震わせた。
「噂や人が街に怨霊をはびこらせることが出来ようか。飢饉や天災を起こせようか。」
 男の言葉に沈黙が流れる。
 灯りまでもが緊張したかのように、揺れを潜めた。
 男達は、言葉を忘れたかのように何も言わなかった。
 灯りの輪から外れた暗闇の中で、静かに桜が風にそよぐ音が聞こえる。
「…いや。噂などではない。…五聖が…五聖が消えてしまったのだから。『あの御方』が現れたというのは……多分事実だ。」
 1人の男が沈黙を破った。しかしその言葉は彼らの間に更なる動揺と不安を招いた。
「五聖が消えたとな?!」
「それはまことか?」
 男達はまるで餌を求める雛鳥のように口々に責め立てる。
「……先日、『あの御方』を見たという者の話を聞いて気になってな…。五聖の神廟を見に行ったのだ。それで……」
 薄明かりの中でも、男達の視線が彼に集中し、次に紡がれる言葉を待ってるのが分かった。
「……五聖の…五神の化身である宝剣と神器が……姿を消していた。」
 ああ、と周囲には絶望の溜め息がもれた。
「……しかし……神廟には…術が施されて入れないのでは?」
「……術は破られていた…。相当な術者が…いるのだ。」
 再び流れる沈黙。皆恐怖に声を潰された。聞こえるのは荒い息遣いのみ。
 再度訪れた沈黙。しばらくの沈黙の後、皆が独り言を口にする。それは壊れたテレビのノイズを思わせた。「どうすればいいのか」と繰り返す。誰に言うわけでもなく、自問自答のように何度も何度も呟いた。

「……『ことじ』と『五鋩(ごぼう)』を見つけなくては。」

 男は言葉を絞りだすように言う。

「『ことじ』と『五鋩』……。」


 その声は苦痛と切が交じりあい、擦れていた。



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