小説

□10:月はでているか(佐かす)
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完璧な闇と静寂。風を切る音さえも聞こえない。
なのにその男は風よりも早く木々の上を疾走していた。

「ふー…やっぱこの時期の夜は寒さがこたえるわ…ん…?」

佐助はそう呟くと一瞬で体勢を整え枝の上に着地する。

「…さすがだな。」

低い女の声。よく知っている声。

「よう。お前も任務かなんかの帰りか?」

向かいの枝の間からかすがが姿を現した。月も雲に覆われ、一切明かりがない深い森の中。
だが鍛え抜かれた忍の目にはお互いの顔が認識できる程度には見えていた。
うんうん。やっぱりいい女だ。佐助の顔が緩む。

「ふん。…そんなところだ。相も変わらず間の抜けた顔をして…」

「酷いなー。生まれつきだっての〜あれ?でも道こっちだっけ?」

佐助がへらへらと笑うと、かすがは溜息を吐き立ち去ろうと背を向けた。

「つれないなー同じ忍同士雇い主の愚痴でも言い合おうぜー」

「ふざけるな。謙信様に対して愚痴などない!」

勢いをつけて振り返ると、佐助はすぐ目の前にいた。

「…っな、なんだ!近寄るな!」

「なに動揺してんの。そういう割には何か悩んでるような顔してない?やっぱ軍神のことだろ?」

払いのけようとしたかすがの腕を掴み顔を近づける。
かすがの頬が朱に染まる。

あーあ。かわいいな…
やっぱりなあ。軍神は今御館様との戦いに夢中で自分を見てくれないってとこか。


「放せ佐助…私は別に謙…」

そこで言葉が途切れた。
かすがのやわらかな唇に佐助のそれが重なる。
かすがの目が見開いたのを感じながら、佐助は唇を貪った。

どれくらい経ったのか。二人の顔がゆっくりと離される。

「…かすが?」

かすがは下を向いたまま。抵抗もなかったようだ。…おかしい。
佐助がその金の髪に手を触れようとした瞬間、彼女は高く飛びのいた。


「誰かに話したら、殺す!」

「大丈夫。お月さんだって見ちゃあいないさ。」

その言葉を残してかすがは闇夜に消え、残された佐助はただぽつんと立っていた。




「…誰のせいで悩んでると思ってるんだ…」

かすがのつぶやきは、誰にも聞かれることはなかった。




























かすがが悩んでるのは佐助のことだったようです。ツンデレっていいね。

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