小説

□8:魔性(市長?)
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夕焼けに照らされた赤い部屋に一人、市は鏡の前に座り込んでいた。

「…市。」

長政が声をかけると、彼女はゆっくりと彼の方を向いた。

「長政様…」

長政はどうにも市が苦手だった。
憂いを含んだ瞳、濡れたような髪に唇。姿形はとても美しい。そこに不満は全くない。
だが、夕焼けに照らされてなお真っ白で生気のない顔。死んでいるような表情。常に憐れみを誘うような瞳。
そして何より、気力というものが感じられなかった。
そんなところがいつも長政の気に障った。

「市、今日は…貴様の話をしようと…」

言い終える前に、市は立ち上がり襖から顔を出す長政の方へと歩きだした。

ゆっくりゆっくり歩んでくる市に、長政は言葉を詰まらせた。
なんだかいつもと違う。そう思った。
射光で煌めく漆黒の髪を揺らして歩くその女は、蟲惑的なまでに美しかった。

「長政様…?顔色が悪いよ…?」

そう言って白い手を長政の両頬にあてた。

ぞくり、と体が震えた。
この女は恐ろしい。脳が警告を発する。だが体は動かなかった。

「見て…?市、紅をつけたの…似合う?」

そこで初めて市が赤い紅をつけていることに気がついた。紅のせいで余計に肌の白さが引き立つ。

「………っ」

言葉にならない。息が詰まりそうだ。

「…やっぱり、市なんかには似合わない?…でも、長政様にならきっと似合う…」

言葉の意味を理解する前に、漆黒の闇が視界を遮った。
病的なまでの美しさ。人を虜にするような香り。瞬間、長政は本当に心臓が止まったと思った。


「やっぱり…長政様には似合うわ…」


顔を離すと、市の指が紅の付いた長政の唇を撫でた。
彼女が微笑むのと同時に、長政は自室へと早歩きで引き返していた。




心臓は早鐘を打つ。
恐ろしい。やはりあの女は魔王の妹ー…廊下を歩きながら思う。

あのままあそこにいたら自分でも何をするか分からない。
魔性の女。まさにそういった感じだった。



夕暮れ時は魔の出やすい時間…いつか聞いた言葉を思い出しながらいつのまにかすっかり暗くなった空を見上げ、溜息を吐いた。


























魔性の女ってこんなイメージ。軽くホラーっぽくなってしまった…

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