小説

□4:かんざし(光→濃)
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廊下を歩いていると、貴女の声がした。



「光秀。ちょうどよかったわ。」

「おや…どうなさいました?」

帰蝶…
かんざしがいつもと違う。新しくこしらえたのだろうか。声もいつもより高めだ。
帰蝶は白魚のような指先でかんざしを撫でてみせる。

「これ、新しくこしらえたのよ。似合うかしら?」

青い蝶のかんざし。漆黒の髪によく映えている。
ああ…今日も貴女は美しい。

「ええ。お似合いですよ…とても。」

「あら。嬉しいわね。」

そう言って微笑む貴女。その笑顔も、そのかんざしも、信長公の為のもの…


「信長公はなんと?」


思わず零れる。おかしいですね…こんなことを聞くつもりは無かったのに。
帰蝶も苦笑しているではありませんか。

「嫌だわ光秀。上様が私のかんざしになど興味をもつと思って?」

「…では、お見せになっていないのですか…?」

「ええ。下らぬことで話しかけるなと、いつも言われているもの。」

そう言った帰蝶の顔が、少し曇った。
ああ、どうして貴女は私のものではないのです?どうして、あの男の妻なのです?
どうして貴女の顔を曇らせる男を選ぶのです?

そしてどうして…私に見せてくれるのです?

信長公には見せない貴女を。
期待を…してしまうではありませんか。私を焦らす術をよくご存じだ…


「だからお前に見せるのが初めてよ。」


ほら。また。


「それは嬉しいですね…」


貴女の後姿を見送りながら思う。

その首筋を一突きすれば、私だけを見ながら死に行くのだろうか…
信長公を殺めれば、私だけを憎んでくれるのだろうか。




ああ。帰蝶。どうして信長公のそばを飛ぶ貴女は、そんなに美しいのですかー…




























光秀が片思いってなんかいいですよね。

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