小説
□3:理の花(長市)甘々
1ページ/1ページ
長政と市を乗せた馬の動きが止まる。
目を瞑り長政の胸に身を預けていた市はうっすらと目を開けた。
市が辺りを見渡すともう夕間暮れだった。
それからゆっくりと長政を見上げた。
「長政様…?どうしたの?」
「市…少し馬から降りるぞ。」
市は馬を降りると、そこが百合の花が咲き乱れている場所だということに気がついた。
太陽が沈み、夜の一歩手前。数歩先もよく見えないが、甘くむせかえるような香りだけは分かる。
市は長政の方を振り返った。
「市。…私はお前の兄を殺した。」
酷く真剣な声だった。
「正義のためだとはいえ、私のしたことは重大なことだ。許して欲しいとは言わん。だが分かってほしい。」
「長政様…」
謝らなくちゃいけないのは、市の方、でしょう…?
「いいえ長政様…悪いのは市…ずっと騙してたのに、迎えにきてくれた…とても、嬉しくて…兄さまのことは、考えられないくらいなの…」
「市…」
長政がこちらに歩いてくる音がする。
暗くてその表情をうかがうことができない。
ただ抱きしめられた感触だけがした。
「市、私は誓おう、正義に、この花に、お前に、私自身に。もう正義を見失わない。お前を放しはしない。お前を泣かしはしまい。市を悲しませるすべてのものを、削除しよう。」
腕の力が強くなる。
ああ、これは、夢?
「市…泣くな。もう誓いを破らせる気か?」
腕の中の市が泣いているのに気付き、指でそっと涙を拭ってやる。
「ごめんなさい、でも、もしかしたらこれは夢なんじゃないかって…」
「馬鹿を言うな…夢であってなるものか」
ごめんなさい。そう言おうと顔を上げる。
腕の力が少し緩んだかと思うと、唇に暖かいものが触れた。
「長…」
「無駄口は悪だ。市。」
思えば、初めての口づけだったかもしれない。
市は長政の真っ赤になったであろう顔を想像しながら、愛しい人の胸に顔をうずめる。
何も見えない、幻のような香りの中で、貴方のことだけを想う。
「市…幸せ。」
とにかく二人が幸せに幸せにと思って書きました。
やっぱりハッピーエンドが一番ですよね。