□グッバイ
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例えばの話、則ち仮定でしかないんだけれども
俺は誰とでも仲が良いし、それなりに打ち解けてると思う
だけど実際俺は誰にも心を開かなかったし、一番大事な部分は包み隠していた
うまく隠し、無駄に明るくて馬鹿な"ラビ"を演出出来てたはずだ
名前がない、イコールでそれは感情がない、に繋がる気がする
だから多分、誰が死んでも泣きはしなかったと思う
辛くても泣きはしなかったと思う
そういう俺を見てお前は俺に『人で無し!』って言うんだろう
じゃあ、お前ならば?
お前の部隊が全滅、壊れたお前のゴーレムを見つけても俺は涙を流さなかった
……流せなかった
それなのに、それなのに

「……私は幻想のノア」

今目の前に居るお前を殺さなくちゃならないと気がついて
涙が視界を煙らせた

「何故泣いている、ブックマンJr」
「なんで……なんさ?」
「?」
「なんで俺がお前を殺さなきゃいけないんさ……?」

あの日
お前がそれを知った日
お前はノアの血が混ざっていてイノセンスを壊されたら発現し、今の自分がいなくなると怯えていた日
確かにそう言った
今と全く違う自分になると
けれど俺の体は素直に反応する
どれだけ変わってしまっても、幾ら記憶がなくても
彼女はお前なんだと―――

目の前にいる女の唇が開き、俺は体を強張らせた

「決まっている。お前はエクソシスト、私はノア。それだけだ」

嗚呼もう彼女は戻らないのか
俺は息を吐き、笑いかけると同意した

「……そうさね」

もう戻らない彼女の名前を頭に刻み俺は笑った
自らの武器を持ち笑った


(好きだったんさ、よ)
俺は彼女を殺した後ひたすらに泣いた
涙を雨と嘘をつき泣いた
記憶の中の彼女は相変わらず笑ってるのに
俺は彼女の言葉をどうしても思い出せずにいた

――――
頬を伝う涙様へ提出



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