ゴ ー ス ト ハ ン ト
□ Psychedelic Herione
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- PROLOGUE -
──「君は邪魔なんでね」
──『藍染…!』
──「異世界を放浪してもらうことにしよう…」
目が覚めた。どうやら見知らぬ公園のベンチに座って気を失っていたらしい。
俺は辺りを見回した。離れたところにある遊具では子供たちが遊んでいて、傍にはそれを見守る母親たち。
ごく普通のどこにでもある平凡な公園。さて、自分はなぜこんなところにいるんだろうか。
記憶を辿る。その先には忌まわしい男の顔。
それはずっと戦ってきた倒さなければならない最低最悪の敵、藍染の顔だった。
泊まり込みで浦原という知人に鍛えてもらった帰り道、奴は突然現れた。
長ったらしい屁理屈を並べた後、俺を異世界に飛ばすとかなんとか言っていた。
気づいたときには辺りは真っ暗だった。
光一つない完全な闇。
そして気付けばこの公園のベンチに座っていた。
この記憶が本当ならここは異世界ということになるが、現世と特に変わったところはない。
平凡なただ見慣れない土地だった。
とりあえずここを離れ、街の方へ行ってみることにした。
とは言ったものの、歩き回った果て、同じ公園に戻ってきてしまったのが。
俺は街の方に行こうとしたんだ。なのに振り出しに戻ってしまった。つまり、俺は方向音痴だ。
その時、どこからか悲鳴じみた声が聞こえてきた。
「ちょっと、離しなさいよ!」
見れば女性が男三人に囲まれている。端から見ればただのナンパだが…。あ、女の人がこっち見た。
なんだその視線。助けろってか?まあ、見て見ぬ振りもできなくはないが…兄貴なら迷わず助けるんだろうな。
そう思うと足は自然とその男女の方に向いていた。
『おーい。その辺にしてやれよ』
「あぁ?なんだテメェ」
「ガキはあっち言っててくれるかなー?これはオレたち大人の…ぐふっ」
『大人の…なんだって?』
「こ、この野郎…」
『三人で囲うほどいい女なのか?だったら俺にも紹介してくれよ…っ!』
二人目の男の鳩尾を膝で蹴り、最後に残った男の前に立つ。
男は恐怖したのか後退る。
そのとき、うずくまっている男の一人が俺の足を掴んだ。
『喧嘩っつうのはな…』
それをチャンスと思った三人目の男は俺に殴りかかった。
が、俺はそれを避け、逆に男の顔面に自分の拳を食い込ませた。
『足だけでやるもんじゃないんだぜ?』
「このガキ…超強ぇ…」
「お、覚えてろよ!」
言って三人はよろめきながらそそくさと逃げて行った。
『覚えてろよって…どこの三流漫画の台詞だよ』
走って逃げていく男たちを見ていると、その一人の背後に妙なモノが浮いているのが見えた。
まさしく何かがとり憑いているような状況で。
俺は物心ついたころにはすでに幽霊が見えていた。それは兄貴も同じで、いつも二人にしか見えない風景だった。
『アイツ、憑かれてやんの。可哀想に』
「あなた、視えるの?」
女の言葉に驚いた。
今の言葉だけで、そう答える人間がいるものだろうか。
俺が男の背後に見たものは世間一般には幽霊と呼ばれるもの。
しかしそれが視える人間なんて早々いるものじゃない。
だから俺は独り言のつもりでさっきの台詞を吐いた。
なのに女はその意味を的確に理解した返答をしてきたのだ。
『あんたも視えるのか?』
「そう返してくるってことは視えるのね。残念ながら私は視えないわよ」
『ならどうして…』
「ん〜、簡単に言えばそういう職業柄だからかな」
『………巫女とかそんなの?』
「ううん。私、ゴーストハンターなの」
『ゴーストハンター?』
「そ。心霊現象を調査するのよ」
『へえ…』
世の中にはそんな職業があるのか。
「そういえばお礼がまだだったわね。ありがとう。助かったわ。あなた強いのね」
『礼なんていいよ。大したことじゃないし』
「良かったらお名前を教えてもらってもいいかしら?私は森まどか」
『黒崎はる』
女は人懐っこそうな表情で笑った。
『どこかに行く途中なんだろ?送っててやるよ』
「じゃ、お言葉に甘えるわね。でもいいの?はるくんにも予定があるんでしょ?」
『いいや、暇だよ。帰る家もないし、することもないからな』
「もしかして家出?荷物もあるみたいだし」
『そんなもん…かな』
異世界から来ました、なんてとても初対面の人間には言えない。
そこから10分ほど歩いてまどかさんを目的地に送った。
その間にも他愛ない話をして、別れ際に約束を作った。
「明日の11時にもう一度ここに来てくれない?バイト、紹介してあげるから」
『いいのか?』
「助けてもらったお礼よ」
異世界に来て初日に就職先を見つけられて、とりあえずは安心だ。
見知らぬ土地に来たものの、衣食住が安定しなければ現世に帰るなど夢のまた夢だ。
とりあえず今日はネットカフェにでも泊まろうか。