波打ち際の青髪の少女

□第一章
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波打ち際の青髪の少女



静かに波が寄せて帰る海辺。普段は人も立ち入らない荒地と化した海辺に、ある噂がある。



「なぁ、あの噂知ってるか?」

「知ってる、知ってる。『波打ち際の青髪の少女』の噂だろ?」

「でも、あれって本当なのか?たんなる噂だろ?」


最近この町ではその話ばかりで、正直俺はうんざりしていた。

(噂がそんなにおもしろいとは思えないな・・・。ほっときゃいいのに)

俺の住む村のはずれにある海はずいぶん昔から人が立ち入ることを禁止されている。
だから、そんな場所に女の子がいるなんてそれだけで大問題なんだけど。

「だからって別に幽霊みたいに扱うってどうなんだよ・・・」

俺はその噂を信じていなかった。

あの日までは・・・だけど。


ある日俺は、部活の帰りが遅くなって夜の8時に一人で自転車で道を走っていた。
通学路のすぐ傍には噂の海辺もあって信じていない俺でも少しは怖かった。
そんな噂なくても、ただでさえ暗くて不気味なのだから。
俺はいつもその海辺の近くだけ自転車を猛スピードで飛ばして過ぎる。

そんな俺の恐怖をさらに追い討ちかけるように、海辺から、少女の歌声が聞こえてきた。

「っ!!」

俺は思わず自転車を止めた。
急ブレーキをかけたせいで前のめりになった。
ハンドルに腹をぶつけたけど、そんなことを気にしている場合ではない。

「なんだ・・・今の、声・・・?」

立ち入り禁止の海辺から聞こえてきた女の子の歌声。

嘘だろ・・・アレはただの噂で・・・っ

ひどくうろたえる俺を闇と恐怖は容赦なく襲う。
でもなぜだか、海辺から響いてくるその声に、俺は妙な安心感を覚えた。
声に気をとられて、自転車を倒してしまった。
ガシャンッ!

その瞬間、歌声はぴたりと止み、代わりに驚いたような声が帰ってきた。

「誰?」

透き通った声。姿は見えなくても、どこにいるかわからなくても、声だけで十分な存在感がある。

「俺は・・・この村の住民だ。お前こそ、誰だよ。姿を見せろ!」

声の主が立ち上がる気配がして、闇に染まった砂浜の岩の陰からひょこっと少女が出てきた。

やっぱり、普通の人間だ。
そして彼女は静かに口を開いた。

「私は、この海の人魚よ」

「は・・・?」

あまりに衝撃的な発言で、肩の力がいっきに抜けた。
何言ってんだ・・・コイツ。
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