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□降り頻る雨の中でも、君は目を醒まさない
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その日はおかしな天気だった。
夏だというのに寒く、さらには雨が降っていた。
そのなかで傘も持たずぽつりと立っている者が居た。
瞳は何も写すことなく、虚ろで、いつにも増して死んだ魚のような目で。
その者を知る誰もが、「異常だ」と囁いた。
否、近藤率いる新撰組だけは違う。
哀れむように銀時を見つめ、或者は銀時と同じように項垂れ、或者は涙を流していた。
そのなかに、栗毛色の少年の姿は見えない。

公には出ていないが隊内の者は皆知ったこと。
……沖田総悟はもう、この世にはいない。
…坂田銀時と沖田総悟が恋人同士と言うことは、誰もが知っていた。
公表していたわけではないが、沖田の顔を見ていればわかること。
銀時の起こす行動に一喜一憂━
見ているものは皆、微笑んでいた。
喧嘩も沢山していたが、ふたりも幸せそうに笑っていた…

その笑顔も、総てが、無いのだ。

誰もが耳を疑った。
でも、紛れもない、真実…
今の銀時の気持ちを表すような、弱く、儚げな雨が降っている。

放心状態の銀時を心配そうに見詰める新八、神楽。

「……ぎ、銀さん?どうしたんですが、何時もの銀さんらしくないですよ?」
「そうネ、何があったか言うヨロシ」
…………………
長い沈黙の末、
「………、」
ぼそぼそと呟く銀時。
だが、二人には聞き取れない。
「どうしたんですか?」
「………死んだ」
今度は聞き取れるように、苦しい顔で、唸るように呟いた。
「えっ?」
「……死んだ、って、誰がアルか?!」
驚愕の顔を浮かべる二人を無視し、銀時は言葉を続ける。

「……沖田くんが、」
死んだ。とはとても言えなかった、それを言うにはまだ、心の整理がついていない。

ドサッ

神楽は腰を抜かしたように、地面に腰を落としていた。

「…う、嘘ネ!アイツが死ぬわけ!」

普段あれだけ言い争っていても、やはり嫌いではなかったのだろう。
信じられない、という顔をし、銀時が首を横に振ると、項垂れた。
土に水がぽたぽたと零れる。
雨ではない、泣いているのだろう。

新八は哀れむような目で、銀時を見詰めていた。



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