短編小説

□Snow breath
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「貴方はまた、私に逢いに来てくれる」
 幼い日の森からの帰り道、そんな予言じみた声が聞こえた。
*****
 厚く積もった雪が、目にしみて痛む。
 サクサクと白い雪が踏み固められ、黒くなってゆく。
 昔は楽しみにしていたその感触も、今の自分にはただただ邪魔でしかない。
 いつの間にか小走りになって、白く染まる森を抜けた。視界が開けて、一層増えた光が目を刺す。
 ともすれば閉じようともがく瞼をこじ開けて、ひたと前方を見据える。切り株に座る少女が、ぱっと顔を上げて、花がほころぶ様ににっこりと笑った。
「おはよう」
「おはよう。今日も雪は積もったわ」
「うん、積もったね」
 いつもの挨拶を交わし、向かいの切り株に腰を下ろした。少女と目が合って、微笑む。
 真っ白い華奢な腕が、更に白いノースリーブのワンピースからすらりと伸びている。丈の短いワンピースからのぞく太ももやむき出しの腕が寒々しい。本人は寒くないと言うが、思わずコートをかけたくなる。
「あたし、あったかくすると溶けて消えちゃうの。雪うさぎだから」
 冗談めかしてそう言ってコートを振り払う少女の姿を見て以来、そんな気はおこらなかった。
 気分を害したからかと尋ねられたら、否と答えることはできないだろう。だが、少女の紅い瞳の奥に、必死さが垣間見えた気がしたからだ。
*****
 このように語ると、随分昔のようだが、これはつい二週間程前のことだった。そして、この少女と出会ったのも、この一ヶ月の間だ。彼女のことを訳知り顔で語るには、短い時間である。しかし、彼女を愛しく想うには充分な時間だった。
 自分自身気付かぬうちに、恋に堕ちていた。
*****
「どうかした?」
 ふと我にかえると、少女が木の実のような紅い眼で、自分の顔を覗き込んでいた。なんでもないよ、と、少女の雪が積もった様に白い髪を、手袋をはめた手でかき回す様に撫で回した。
「あ、そうだ。明日のクリスマスイブ、うちに来ないか?」
「え?」
 

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