一般向け小説置場

□億千万分の一の思い出〜懐かしい遊び編〜
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「ぎゃはははは!何やってんだよ成歩堂!もー、お前最高!」
「ご…ごめん、御剣!わざとじゃないんだ!」
咄嗟に側にあったおしぼりで拭こうとしたら、急に御剣は無言で立ち上がって背を向けた。
撥水加工の紅いスーツに酒自体は染みはしなかったが、すっかり酒の臭いが染みてしまった御剣と、そんな御剣を見て慌てる僕、そして(何がツボだったのかは知らないが)膝を叩いて大笑いしながらただ見ていた矢張の間に、何とも不穏な空気が流れ始めた。
「あ、あの…御剣?」
呼び掛けたが返事がない。
何やら黒いオーラをひしひしと感じた。
嫌な予感…;
「…成歩堂、ここの支払いは矢張に任せて、共に帰ろう。矢張が我々を招待したのだ、今更勘定を我々に押し付ける様な真似はしないはずだ。」
振り返った顔は、口元は穏やかな笑みを浮かべていたが、目は完全に【キレてます】と語っていた。
『『こ…怖ぇーっ!ΣV;』』
(↑矢張・成歩堂の心の叫び)
僕と矢張は思わず(法廷でピンチになった時よりも)激しく冷や汗をかいた。
だが、御剣は構わずに靴を履くと、すたすたと店から出ていこうとしていた。
「ま、待った、御剣!悪かった、俺が悪かったから帰らねえでくれよぉ〜!俺今生活ギリギリなんだよ!頼む!少し貸してくれよ、来月返すからさ!」
矢張がうるうるとした瞳で本音を白状すると、御剣が少しだけ振り返った。
「…どうする?成歩堂。」
「(そこで僕に振るのかよ!Σ;)う…そりゃあ、御剣の言う事が正しいけど…金の無い辛さは僕も他人事じゃないし…千円まで位なら出してあげても良いんじゃない?ほら、矢張ってアルバイターだし…。」
「ふっ…稼ぎたければ我々の様に公務員になってみたまえ。」
『『つ…冷てぇ−−!ΣV;』』(↑矢張・成歩堂の心の叫び・Part2)
矢張をフォローした自分が恨めしく思えた。
叱られている訳でもないのに、成歩堂は矢張同様にすっかり反省モードになっていた。
「成歩堂、君が気に病む必要は全くないではないか。」
御剣の一言は、つい先程の様子からは想像もつかない程優しい声で告げられ、成歩堂はほっと安堵のため息を漏らした。
「…という訳で、改めて支払いは矢張に任せたぞ。さぁ行くぞ、成歩堂。」
御剣は矢張に向き直りぴしゃりと言い渡して、僕の腕を掴みながら店を出た。
矢張は茫然自失状態で、御剣から押し付ける様に手渡された伝票を握り締めていた。


後日、金の無心に矢張が事務所を訪れたのは、また別の話…


End
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