一般向け小説置場
□風鈴と花火
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夕暮れが迫りつつあり、そろそろ提灯に明かりが点る頃。
やっと携帯が鳴った。
《すまない、遅くなった。》
「お疲れ様。今何処?」
《公園に着いた。君は?》
「僕は湖の北側。真宵ちゃん達は先に帰ったよ。春美ちゃんもいるのに帰りが遅くなるからって…ちょっと残念そうだったけどね。」
《そうか…では今から君の所に向かおう。》
「え?花火は東側が見やすいのに…」
《…花火より…がい…》
「え?よく聞こえな」
ヒュルルル…ドンッ!
花火大会が始まったみたいだ。
あ、ここでも一応見えるな…見通し悪いけど。
《ツー、ツー、ツー》
「あ。」
切れちゃった…。
詳しい場所言わなかったけど、わかるかな…わかる訳ないか。
ブルブル、ブルブル。
メールの着信を知らせるバイブレーション。
「御剣だろうな。」
=====
件名:無題
すまない、先程は電波が悪くて切れてしまった。
今夜は君と二人で過ごしたかった。
浴衣姿、良く似合っている。
出来れば誰にも見せたくない。
今夜私のマンションに来てくれたまえ。
=====
「っ〜!こ、これ…!」
は、恥ずかしい!
《浴衣姿、似合っている。出来れば誰にも見せたくない。》
御剣の甘く優しい声で、そう聞こえてくる様な気がして、思わずドキドキしてしまう…。
ど、どうしよう、二人きりで会うのに、御剣がこんな事考えてるなんて意識したら僕…恥ずかしくて死ねる!
あぁもう!
どうして御剣ってこう…意地悪なタイミングでドキドキさせるんだよ!
まだマンションで言ってくれれば…い、いやいやいや!
恥ずかしいのに変わりは無い!
「あぅ…御剣のバカ…何でこんな恥ずかしい事言うんだよ…」
「君が悪い。」
「っっ!!
み、御剣!?
びっくりした…!
「何を驚いている?」
「だ、だって!ついさっき公園に着いたって…!」
「北側の入口に着いたのだ。」
「な、なんだ…いや、それにしてもこのメール…!」
「む…素直な感想だが…。」
「ストレート過ぎだから。もう…加減が無さ過ぎ。」
ちょっと意趣返しがしたくて、わざと少しだけ怒ったふりをしてやった。
「む…すまない。」
「悪かったって思うなら…そうだな、すぐそこの屋台でジュース買ってくれよ。ちょっとノド渇いたし。」
「あぁ。」
御剣は大人しく買いに行った。