一般向け小説置場

□特効薬
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†成歩堂視点

「成歩堂。薬を買いに行くから大人しく寝ていたまえ。」
「ん…」
僕をゆっくり寝かし付けると、性急に出て行った。
ドアが閉まって、御剣が遠ざかる気配がした。
「…何だか…淋しいな…」
つかの間の筈なのに、不器用ながらも一生懸命看病してくれる優しい恋人…御剣がいなくなったのが、とても淋しく感じた。
「僕って本当…『彼女』が言った通り甘えん坊だなぁ…ゲホ、ゴホ…ックシャンッ!」
今は亡き『元・彼女(として付き合っていた双子の姉)』に指摘された事を、こんな時に思い出したなんて知れたら、多分怒るんだろうな。
あんな冷静そうに見えて、結構ヤキモキ焼きな所があるから…それもたまに的外れな方向で。
昔は−と言っても小四の頃しか知らないけど−、もう少し落ち着いてたと思ったんだけど…。

『…カツ、カツ、カツ、カツ、カツ』

あ、帰ってきた…って、この場合『戻ってきた』の方が正しいのかな…?
ここは僕の住んでる所なんだから…。

†御剣視点

「成歩堂、今戻った。」
私が見せた薬に、成歩堂は何故か顔を更に赤らめて目を円くした。
「さぁ、これを塗るぞ。」
「そ、それ…もしかして、御剣が僕に…?」
「む?嫌か?」
「あぅ…だってソレ…胸に塗るタイプだから…その…」
「…心配するな。病人相手に色事を致すつもりは無い。君は安心して休みたまえ。」
「い、色っ…!」
恥じらう成歩堂は本当に可愛らしいが、このまま致しては成歩堂の負担が大きすぎるだろう。
手を入念に洗い、薬を胸に塗ってやると、成歩堂は身体を微かに震わせた。
「ん…!」
「すまない、冷たかったか?」
「…ちょっとだけ…」
右手の甲で口唇を隠す様にしてそう答えた敏感な成歩堂が、あまりにも煽情的だった。
「…あっ…!」
「む!?」
不意に『甘い鳴き声』に近い物が聞こえ、つい手が止まってしまった。
「ご、ごめん…」
「いや…すまない。」
熱く熟れていく胸の果実に、自然と目を奪われてしまう。
『このまま君を味わいたい…』
だが先程手出しはしないと約束した手前、無体を強いる訳にはいかなかった。
何より、風邪で苦しんでいる恋人に…。
「あ…何か…スーッとしてきた…気持ち良い…」
塗り薬が効いてきたらしい。
「少しは楽か?」
「うん…ありがとう…」
呼吸も少し落ち着いた様だ。
「そうだ、君も食事をとっていなかっただろう。」
「…あまり食欲無いけど…」
「薬を飲まなければ、治りも遅い。無理にでも流し込んでしまうのが一番だ。レトルトで悪いが、用意してくるから食べたまえ。」
「ん…わかった。」
こんな時、自分が器用であればと悔やまれる。
恋人の為に食事も満足に作れないとは…。
温めた粥を器にあけ、梅干しとスプーンを添えた。
「ありがとう…」
微かに震える手が、ゆっくりと粥を口に運ぶのを見ていた。
「熱くはないか?」
「大丈夫、食べ頃な温度だよ…わざわざ、冷ましてくれたんだな…手間かけて…ごめん…」
弱々しく微笑みながら、そう呟いた成歩堂。
熱のせいか、普段より幾分か紅く色付いた口唇に、きつく抱きしめてキスをしたい衝動に駆られた。
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