一般向け小説置場

□「キス」で求める10のお題
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「御剣、走ろう!」
成歩堂が私の手を引いて走り出した。
「っ!」
成歩堂の手の柔らかい感触と、心地良い温もりを感じた。
成歩堂の意外な握力の強さに、自然と頬が熱くなった。

ずっと君と…こうしていたい…。
もし魔法が使えたら、今この瞬間の時を止めてしまいたい…。

許されるなら、この手を強く握り返して、離したくない。

それが許されないのなら、せめて、振りほどかれない様に走らなければ…例えそのせいで、間もなくこの手が離れようとも…。

再びパタパタとせわしなく、成歩堂のランドセルのフタが鳴った。
私のランドセルも、中身が揺さぶられ、鼓動をごまかすかの様にゴトゴトと鳴った。

突然ザァッと降り出した雨だが、幸運にも私達にはかからなかった。
煙草屋の軒先に辿り着いた途端に降り出したからだ。
「はぁ…よかった、間に合ったぁ。」
成歩堂の手は離れてしまったが、温もりと感触は暫く残っていた。
「良いタイミングだったな。君の御蔭で濡れずに済んだ。ありがとう。」
「でも…こんなに降ってたら、すぐには帰れないね。止むまでここにいないと…」
という事は…暫く成歩堂と二人きり…!
そう意識した途端に、恥ずかしさが込み上げた。

ゴロゴロゴロ…

「っ!?」
微かに雷鳴が轟いた。
「雷か…もうすぐ梅雨明けだな。」
「そう、だね…。」

ビカッ!

「わぁっ!」
がばっ!
「な、成歩堂…?」
突然、成歩堂が私の胸に飛び込んだ。
「ご、ごめん…僕、雷苦手で」

ゴロゴロゴロ!

「うわぁっ!!」
しっかり抱き着く腕の力強さとは裏腹に、雷鳴に怯えて震える成歩堂。

顔が熱い、動悸が煩い。

何故こんなに手が震える…?

彼を何とか安心させたくて、頭を優しく撫でた。
手に馴染む様な、意外にも柔らかい髪。
太陽の、匂い…確かな存在感…。
「安心したまえ、成歩堂…。」
「…み、御剣…?」
「私は…いつでも君の傍にいる…。」
「…御剣…」
潤んだ瞳が、私を見つめた。

同級生にして同じ男にも拘わらず『可愛らしい』と思ってしまうのは、この大きく黒目がちな、澄んだ瞳のせいか…?

綺麗な瞳に、吸い込まれる様な感覚。

『好きだ、成歩堂…。』

そっと抱き寄せて感じた、意外にも柔らかい感触…。

「っ……!」

気が付くと、成歩堂にキスをしていた。

成歩堂の口唇から伝わったのは、子供特有の柔らかく熱い感触。
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