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□「キス」で求める10のお題
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偶然の瞬間
(子供時代の御→←成と、カップルなりたて御成)

土曜の朝。
「…間もなく梅雨明け。明日から気持ちの良い晴天が続く地域も…」
との予報が聞こえてきた。
「もうすぐ夏だな…」

梅雨明け時になると、時々思い出す。
あれはまだ小学生の頃。
成歩堂と私を結び付けた、運命の『学級裁判』の後日だった…。

   *   *   *

「おーい、御剣ーっ!」
下校途中に、突然呼ばれた。
「む?」
振り返ると、成歩堂がランドセルのフタをパタパタ鳴らしながら走って来たのが見えた。
「はぁ、はぁ…い、一緒に、帰ろうよ。」
息を弾ませ、少し赤らんだ顔に人懐っこい笑みを浮かべて言った。
「む…構わないぞ。」
「はぁ…よかったぁ。」
可愛らしい…そんな表現が似合う笑顔。

同級生にして同じ男にも拘わらず、成歩堂を『可愛らしい』と思ってしまうのは、この大きく黒目がちな澄んだ瞳のせいか、はたまた万華鏡の様にくるくると変わる豊かな表情のせいか…?

そんな事を考えるながら、私と成歩堂は並んで歩いた。

成歩堂と私、二人きりで並んで歩く…そんなシチュエーションを、本当はどれ程待ち侘びた事か…。
だが実際は、上手く会話も出来ず、成歩堂の手を握るどころか、顔さえまともに見られず、眉間にシワを作ってしまう始末…。
まさか自分が、ここまで『照れ屋』だったとは…。

「御剣。」
「…あ、ああ。何だ?」
「あのさ…ずっと言おうと思ってたんだ…学級裁判の時、僕の事信じてくれて…本当にありがとう。」
走って来たせいだけでなく、顔を赤らめながら笑顔で感謝の言葉を述べる成歩堂に、思わず胸が高鳴った。
「…弁護士たる者、常に味方無く弱い立場の正しき者を護れ…父の教えだ。君は盗みを働く様な人間ではないと分かっている。それに証拠品の給食費の封筒も無かった。だから弁護をしただけだ、気にするな。」
「…そっか……あ。」
若干がっかりした顔の成歩堂が、突然空を見上げた。
「今頭にポツッて来た。」
確かに、先程より雲行きは怪しいが…。
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