逆裁王国パロ

□執事が御剣で成歩堂が坊ちゃんで(シリーズ物)
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坊ちゃんと執事の、一方通行な恋心の一日

†執事Side

私は御剣怜侍(26歳)。
龍一様(10歳)付きの執事である。
「御剣ーっ。」
ぱたぱたと、お屋敷の廊下をかけて来られる小さな足音。
「龍一様、走られては危ないですよ。」
「あ、ごめん…えっとね…今算数の宿題やってるんだけど、ここの解き方わからないから、教えてくれる?」
その様な、お可愛らしく困ったお顔で尋ねられては…答えすらお教えしてしまいたい…そんな甘い考えが頭を過ぎる。
「かしこまりました。この式は最初にこちらを解きますと…」
説明をしていくと、龍一様は突然明るい表情に変わった。
「わかった!」
教科書に、自ら出された答えを記し、
「…これで合ってる?」
と、上目使いに教科書を見せる龍一様。
あぁ…何と愛くるしい表情!
「…正解、お見事です。」
「やったぁ!御剣に褒められると嬉しいな。教えてくれてありがとう!」
嬉しそうに礼を述べられる龍一様の笑顔に、いつも私は癒されている…。
「勿体ないお言葉です。」
「…ね、御剣。」
「どうされましたか?」
「…あ、あのね…」
突然、龍一様がボリュームを落として顔を赤らめたため、急に熱が出たのかと不安になった。
お身体があまり丈夫ではない龍一様は、たまに急な発熱をされるのだ。
「あのね…『いい子いい子』…してくれる…?パパ達がしてくれるみたいに…」
「っ!?」
『いい子いい子』とは、龍一様が旦那様や奥様から褒められた時、椅子に座った状態の膝に龍一様を乗せながら頭を優しく撫でる動作の事で、つまりそれは…龍一様と密着状態で…!
「そ、そんな恐れ多い…!」
「…じゃあ…代わりに、抱っこしてくれる…?」
龍一様、密着状態に変わりはありません!
「…ダメ?」
「っ!と、突然その様なアレを申されましても…」
「だって…パパ達いつも忙しくしてて、僕さみしいんだもん…代わりに、御剣に『いい子いい子』して欲しくて…」
「り、龍一、様…」
そうだ…旦那様も奥様も、この所龍一様と会話出来ない日々が続いていらしたのだった…。
切ない龍一様の胸の内を察して差し上げられなかった自分に、猛烈に腹が立った。
「ね、御剣…抱っこして?…お願い。」
「龍一様…失礼致します。」
龍一様の小さなお身体を抱き上げると、
「御剣…あったかい。」
龍一様は嬉しそうに呟いて、私の首に腕を廻してしがみつかれた。
柔らかな吐息、子供特有の甘い香り、まだ成長しきれていないお身体の、少女と間違う位の柔らかな感触と軽さ…寂しさを紛らせる様に擦り寄る頬…。

愛おしい。
龍一様の全てが。

いつの間にか、龍一様は私の腕の中で眠っておられた。
すやすやと安らかな寝息が、首筋を優しくくすぐった。
幸せそうな微笑を湛えた龍一様を起こさない様にゆっくりと寝室に運び、そっとベッドへ寝かせようとした時だった。
「ん…」
「龍一様…?」
お目覚めになられたのかと思ったが。

「御剣ぃ…大好き…ふふ…」

幸せそうに呟いた龍一様のお言葉。
キュン…と、私の胸の内を甘い痛みが駆け抜けた。

恐ろしくも私は…天真爛漫で、素直で、甘えん坊で泣き虫だけれど、それすらも可愛らしいと思える程に…龍一様に対して、恋愛に近い感情を抱いている。

こんな私が龍一様に触れる等、恐れ多くて…それでも触れたくて…。
この愛おしい存在を抱き上げた瞬間の、言い知れぬ幸福感と少しの罪悪感。

「私も…龍一様が好きです…」

口にしてしまうと、愛おしさは更に募り。
起こさない様に細心の注意を払いながら、ふっくらとした桜色の頬にそっと触れた。
滑らかなシルクの様な手触り。
確かな命の温もり。

堪らなく愛おしい…。

気が付くと、龍一様の頬にそっとキスをしている自分がいた。

「っ!!」

な、何と恐れ多い事を!!
こんな事が旦那様方に知れたら…!!
私は罪悪感に苛まれて、慌てて部屋を出た。
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