貢ぎ物

□離したくない温度
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離したくない温度


事務所の終業間際。

〜〜♪

トノサマンの着メロが鳴った。
「もしもし?」
『成歩堂…大切な話がある。』
神妙な声音で何の前置きも無く切り出された。
…御剣がこんな声を出す時は、大抵何か悩み事を抱えた時だ。
「…御剣、何かあったのか?」
あいつはいつも、自分勝手に思い詰める傾向があるからな…。
『む、その…大事な話だから直接会って話したい。』
「…いいよ。じゃあ、早速今夜で悪いけど迎えに来てくれるか?事務所で待ってるからさ。」
『ああ。それでは後程…邪魔したな。』
…随分神妙な声音だったな。
一体何があったんだ…?
まさか…『この関係を解消したい』とか…?

御剣が着いた時、何を聞かされるのかと内心びくびくしながら迎えた。
「すまなかった、渋滞に捕まってしまって…」
「気にしなくていいよ、渋滞なら仕方ないさ。」
僕としては、複雑な心境だった。

…別れ話なら聞きたくないけど、それでも御剣に逢いたかった…。

向かう途中の話にも、耳は音を捉えている筈なのに全く頭で理解出来なかった。
「…どう…成歩堂、聞いているのか?」
「…え!?あ…ごめん…ちょっと仕事で疲れたかな…」
「大丈夫か?」
ナチュラルに心配してくれる優しさが、いつもなら素直に喜ぶだろうけど、今日は少し怖かった。
別れの前の優しさに感じて…

   *   *   *

御剣にエスコートされる様に部屋に通された。
相変わらず、豪華で綺麗に整頓された、生活感の無いモデルルームみたいな部屋。
「適当にかけてくれたまえ。」
そう言ってキッチンに行ったのは、マスター御剣(僕が勝手に付けた名前)がいれてくれる、美味しい紅茶の準備をする為だろう。
最新の電動ポットが、早くも沸騰している音を立てていた。
…わざわざ紅茶を出すという事は、いよいよ重大告知なんだな。
それも、酒でごまかしてはいけない様な程重大な…。

甘く良い香りを立てるミルクティーが、お洒落なティーカップで出された。
「…いただきます。」
猫舌な僕に合わせて少しだけ熱さの和らいだミルクティーは、シナモンが隠しスパイスとして効いていた。
「…美味しい。」
「気に入ってもらえてよかった…ロイヤルミルクティーが好みだと思ったのでな。」
普通のミルクティーと、どう違うかがよく分からなかったけど、今は紅茶の話をしに来た訳では無い。
「御剣…話って何なんだ?」
単刀直入に聴く事にした。
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