貢ぎ物

□Which Do You Like?
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目の前に改めて注意を向けると、ゴドーの顔が先程よりも近くにあり、彼の背後には蛍光灯が見えた。
有り体に言えば、成歩堂はゴドーに《押し倒された》のだ。
「ちょっ…と!な、何ですかこの状況は!離して下さい!」
起き上がろうとしたが、ゴドーの左手によって成歩堂は両手首をひとまとめにされ、頭上に張り付けられた様な恰好になり、身動きが取れずにいた。
痛い位の力で顎を掴まれ、強制的に真正面で向き合わされた。
「…!」
本能的に恐怖を感じた。
〔そうだ!この人は僕を怨んでいるのだった…!〕
思い出すのが遅かったが、この様な状況では下手に騒いだら余計に危険だと、どこかで判断した。
「クッ…恐怖に震えて目を潤ませてるアンタ…恰好つかねえなぁ、逆転弁護士さんよぉ…」
嘲笑う様に言い放つと…
「むぐっ!?」
人口呼吸の様に、成歩堂の口唇を覆った。
何度も何度も、角度を変えては口唇を吸われ、舌を探られ、吐息すら零さないかの様な、激しい物だった。
「んっ!んむ…っ!んーっ!」
(嫌だ!止めてくれ!…御剣…助けて!)
キスというよりは、《噛み付かれる》に近いといった具合だった。
コーヒーの薫りを纏いながら侵入する舌を押しやろうとするが、かえって絡み付かせてしまう結果になり、やがて成歩堂の背筋にゾクゾクとした快感が這い上がって来た。
(う、嘘だ!こんな…レイプみたいなキスに感じるなんて…!)
だが、御剣に教え込まれた快楽を覚えたばかりの身体は、成歩堂の理性を凌駕する様に快感を拾い出した。
酸素が不足してきて、意識が霞み始めたのを感じた。
(あ…あ…み、御剣…助…けて…)
それでも、心では御剣に助けを求めていた。
漸く激しいキスから開放されると、ゴドーは笑みをひそめた。
「…アンタ…俺を見ていねえな…」
「…?」
ゼエゼエと喘ぎながら涙ぐむ成歩堂の目を、覗き込みながら呟いた。
「…俺を…俺だけを見ろ…!」
悪夢に苦しんでいるかの様な、心の闇を絞り出す様な声で成歩堂の耳元に囁くと、再び口唇を奪った。
「んむっ………!」
マスクに隠れている為、ゴドーの顔を見る事は出来なかったが、あまりにも余裕のないキスの仕方に、
〔まるで…愛した人の代わりに激情をぶつけられているみたいだ…〕
と感じたが、それが成歩堂の思い出せる最後のシーンだった…。
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