一般向け小説置場

□辞令は大迷惑っ!
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私は、ここ数日少々浮足立っていた。
周囲には秘密にしているが、つい先日成歩堂から告白されて恋人同士になれたばかり
なのだ。

『御剣…僕…御剣の事…好きなんだ…友達として、以上に…』

清純な乙女よろしく顔を赤らめ、黒目がちな瞳を少し潤ませて告げられた言葉に、私は心臓を撃ち抜かれた。

しかし、どんなに幸せな気分に浸っていても、相変わらず扱うのは陰惨な事件ばかりで、精神的にすっかり参った私は、重い足取りで検事局を後にした。

マンションに着くと、成歩堂が出迎えてくれた。
「あ、お帰り御剣!」
「ただいま…」
「メール読んだ?」
「君が作るからとあったから、楽しみにしていたのだ。」
「そっかぁ…。期待に沿えるかわからないけど、もう出来てるよ。」
手を引かれてキッチンに入れば、クリームシチューが鍋一杯に出来ており、くつくつと食欲をそそる音と匂いを立てていた。
「これはすごいな…」
「そうか?作り方はルゥの箱の裏に書いてあるから、試しにやってみたんだ。」
座ってて、と促されテーブルに着くと、成歩堂がフランスパンをカットし、二人分のシチューを用意した。
「む?君は先に食べなかったのか?」
「うん。御剣と一緒に食べたくて待ってたんだ。」
な、何といじらしい…!
「いただきます。」
早速シチューを一口。
「…どう?」
上目遣いに伺う仕種が可愛らしい…。
「うむ…絶品だ。濃厚な味わいもさる事ながら、君の愛情がたっぷり溶け込んでいるのだから、まずい筈が無い。」
「な…そ、それは誉め過ぎ!」
真っ赤に照れながら抗議するが、
「まぁ…『喜んで貰いたい』っていう想いだけはたっぷり込めたけど…」
等と恋人に呟かれては、愛しさが込み上げない方がどうかしている。
「成歩堂…デザートは用意してあるか?」
「え?まだ入るのか?」
案の定、食後のデザートという発想の無い成歩堂はきょとんとした顔で私を見た。
「勿論…今宵も、甘やかな君の全てを喰らい尽くす…覚悟したまえ…。」
「!!」
途端に、『ボッ!』という音が聞こえそうな程の勢いで赤面した。
「や…やらしいよ、その言い方…」
全く…成歩堂の反応は本当に逐一可愛らしい…。

あぁ…私の心は、常日頃君で一杯だ…この喜びを何に例えられよう。

…だが、その幸せは長続きしなかった。
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