一般向け小説置場

□遠い2センチ
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御剣は体格が良い上に、身長が2センチばかし僕より高い。
普段何とも思わない様な、ほんのささやかなその差。

だけど…不意に気になる瞬間はある。
立ったままキスしたりすると、御剣は密かに前屈み気味になる。
それがちょこっと悔しかったりして、気付かれない様にちょっと背伸びするみたいに踵を浮かせてみたりしている。

   遠い2センチ

今日は土曜日。
初夏の陽気、とまでは行かないけど、少し普段より温かい。
お互いに案件も片付いてゆっくり休めるからと、ちょこっと遠出してみた。

都心から多少近いとは言え、山奥のドライビングコースから少し奥に歩いていくと、目に入る物は綺麗な緑色ばかり。
勿論人通りもほとんど無く、本当にここは…
「静かだね…」
「うむ…」
風が吹けばサラサラと樹々がざわめき、耳をすませば鳥が囀ずる声。
近くに小川が流れているのか、微かに水の音も聞こえる。
「自然が綺麗で静かな所って、つくづく良いよな。」
「…君と一緒に居られれば、私は何処でも良いのだが、君に喜んでもらえたのなら連れて来て良かった…」
さっきより声を近くに感じて振り返ると、すぐ傍で御剣が穏やかに微笑んでいた。
ちょこっと手を伸ばせば、簡単に抱き締められる距離。
急に、今僕達は二人きりなんだと意識して恥ずかしくなってしまった。

「成歩堂…」

つい逸らした視線を戻される様に、優しく肩を掴まれた。
「此方を向きたまえ。」
肩が思わず小さく揺れたのは、御剣の声が甘くて優しい響きを持っていたから。
「御剣…」
やんわりと、傍にあった樹に身体を押し付けられた。
見つめ合っているだけで、心臓が早鐘を打つ。
御剣の瞼がゆっくり閉じて、顔が少しずつアップになってくる。

「……っ…………」

柔らかな息遣い。
優しい温もり。
鳥の鳴き声。
せせらぎ。
風の音。

『何だか…凄く幸せ、だなぁ…』

綺麗な青空の下、御剣とキスしてる…。
まるで、天から祝福されてるみたいで。

漸く口唇が離れた瞬間。

『ぐぅ〜…』

何ともマヌケで色気の無い音。
「………」
御剣が怪訝な顔をし始めた。
「…ご、ゴメン…」
素直に謝ったら、溜め息をついてから苦笑いして言った。
「確かに、もうすぐ昼時だな。」
やっぱり少しがっかりしたみたいだ。
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