一般向け小説置場

□二人と二匹のスウィート・ハロウィン
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検事局から、大きな紙袋を抱えて帰って来た御剣怜侍は、
「今帰った。」
と、一人きりで暮らしている人間には不要な筈の台詞を発した。

「みゃん。」

無人の部屋で返事をしたのは、真っ黒で艶やかな毛並みの子猫。
リビングから足音一つ起てずに歩いて来たかと思うと、
「みぃ、みぃ。」
座り込んで靴を脱いでいた御剣の背中に、カシカシと爪を立て、よじ登り出した。
「む?…こら。爪を立ててはいかんぞ。」
窘める声は、どこか嬉しそうだった。
「近々ハロウィンだからな。ささやかながら、君にもおやつを買ってきた。」
「みゃあ。」
子猫は、まるで返事をするかの様に嬉しそうに鳴いた。

御剣がこの子猫を飼うきっかけになったのは一週間前。
幼なじみの一人、矢張からの電話だった。

   *   *   *

『彼女のアイさ、動物好きな可愛いコなんだけど、飼ってる猫が避妊手術させる前に妊娠しちまったとかで、引き取り手探してんだよ。一匹だけで良いから、引き取ってくれねぇか?』
と、御剣からすればふざけた内容。
「動物が好きなら、彼女が自分で飼えば良いものを…。」
『それがさ、既に三十匹以上飼ってるからもう飼う余裕ねぇんだと。』
「な、なんと無責任な…保健所から苦情の連絡が来」
『そう。正にそれ。でさ、成歩堂んトコにも聞いたんだよ。ところがさ、アイツのアパート、大家に事情説明しても『ペット禁止』の一点張りで断られちまったんだよ。こっそり飼うにしても、鳴き声でバレるだろ?その点、御剣んトコなら防音設備しっかりしてるだろ?』
ライバルの弁護士で幼なじみの成歩堂の名前に、少なからず反応した。
「む…それはまぁ確かに…(成歩堂の[夜の声]すら遮断する位に…いや、それは言うまい…)」
そう、成歩堂は[ディープな付き合い]をしている恋人でもある。
ただし、周囲には非公開だが。
『だからさ、頼むぜ〜…実はさ、ぶっちゃけ引き取り手見つからなかったら、2、3日中に保健所で処分されちまうんだ…。』
[保健所で処分]という内容に、心が揺れた。
「だが、世話をする人間がいなくては結局飼えないだろう。私は一人暮らしだぞ。仕事の間、家は留守なのだ。」
『あ、トイレの躾は出来てるぜ。水と餌用意して、帰ってからトイレの砂とか交換するだけだって言ってたぜ。』
「む…」
流石に躾は行き届いていたのか…。
『ちゃんとした引き取り手が見つかるまでの間だけでも構わねぇからさ、頼む!マジで可愛いんだぜ?写メ送ってやるから、検討してくれよ。』
「むぅ…まぁ、検討位なら」
『おう!それでこそ幼なじみだぜ!』

そうこうしている内に送られた画像は、可愛らしい真っ黒な子猫が、人懐っこそうな金色のつぶらな瞳を正面に向けていた。

どこと無く、成歩堂に似ている…。

それが第一印象だった。
実物の子猫を見たくなり、直ぐさま連絡を取った。
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