ホ宝物展示場ホ書庫

□Scars of love(素敵SS付v)
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Scars of love(素敵SS付v)
/7万hit御礼フリー絵



「すみませんが、野暮用なんです」
 見張りの男にそう断って、僕は彼らに背中を向けて歩き出した。
 ゴドーさんからの依頼は終わらせたのだから、あとはフリータイムのはずだ。
 おい、と追いかけてくる声に、ちろりと視線を投げる。
 ついてくるな、と視線に意味を込めると、面白いように男の顔から血が引いた。
「逃げようなんて思っちゃいませんよ。弟たちの身の安全もありますからね。でも……今は、一人にしてもらえるかな」
 慌ててゴドーさんに連絡を取ろうとする彼らをそのままに、僕は街角を曲がり人混みをすり抜け路地を通って、ようやく足を止める。
 隠していた銃をコートごと身体の横に置き、ノットに指を絡めてネクタイをゆるめた。
 ボタンをいくつか外して、楽になった呼吸をため息と一緒に吐き出す。
 薄汚れた壁に背中を預け、油断なく周囲に気を張る。
 適度に他人へ無関心な人たちは足早に僕の前を行き過ぎ、揺らぐ風の余韻だけを落としていった。
 片手をポケットに突っ込んで、ナイフの柄を握る。
 もう片手は、コートの下の銃のトリガーに当てておく。
(そろそろ、爪を切らなきゃな)
 伸びた爪先が引っかかる違和感。
 銃身を傷つける心配もあるから、早めに処理をしておかなければと思う。
「……相変わらずだな、キミは」
 細い路地を挟んだ隣に男が立った。
コートが汚れるのを嫌ってか、ピンと伸びた背中を壁に当てることもせず、端正な顔立ちを隠すように軍帽を目深にかぶる。
「お前だって、あの頃のまま変わっていないね」
 視線を合わせることはなく、僕らは独り言のように言葉を吐いた。
 ポツリポツリと落とす声は互いの耳にしか届かず、居合わせた人間がいたとしてもぼんやりと立ち尽くす僕らのつながりなど分からないだろう。
(元気そうだな、御剣)
 かつては同じ日本人学校で育った男。
 けれど、僕らの道は途中で分かたれた。
 僕は組織に拾われヒットマンとなり、御剣は父親の影を慕って警察へ身を置くようになった。
 彼は僕を逮捕すべく何年も追いかけ、けれど、警察の不始末の責任を背負って手を引いた。
 それから、僕の前に顔を見せることはなく――こうして会うのは、かなり久しぶりのことになる。
「キミは……足を洗ったのではなかったのかね?」
 尋ねられた言葉に、小さく笑う。
 僕の後ろにゴドーさんの組織があることは調査して知っているだろうに、本人の口からの証言を引き出すまでは信じない。
 変わらないその性根がどこか嬉しく、そして、悲しかった。
「まぁ色々と事情ってものがあるのさ。お前こそ、よく僕の居場所が分かったね」
 肯定も否定もしないまま、ゆっくりと顎を上げる。
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