ホ宝物展示場ホ書庫

□HAPPY DAYS
1ページ/3ページ

HAPPY DAYS

晴れやかな青空、白い雲。

緩やかな下り坂になっている川沿いの小路をゆっくりと下りながら、ぼくは、今にもずり落ちそうになってる両手いっぱいの荷物を、よいしょ、と抱え上げた。

ほっと、息をついて足を止める。

買い物をしたらすぐに帰るつもりだった午後の外出は、抜けるような青空とふわふわと漂ってくる花の香りに誘われて、気がついたら少しだけ遠回りになっていた。
すごく気持ちのいい風が吹いてたし、すぐに帰ってしまうのがもったいないような気がして。

5月の花々が咲き乱れる、麗らかな日差しの初夏の午後…
土手から吹き上がる爽やかな風が、借り物の少し大きめのシャツの隙間をサラリと通り過ぎ、優しく素肌に触れて吹き抜けていく。
ただここに居るだけで心が浮き立つような、そんな、最高のこのひととき。

(多分、今日って一年で一番キモチのいい日かもしれない)

そう思いながら、ぼくは再びゆっくりと歩き出す。頬にさらさらと風を感じながら…次の瞬間、本当に唐突に…不思議な寂しさを心に感じた。

(やっぱり…ふたりで来ればよかったかな…)

足を前へ前へと運びながら、ふと、部屋を出て来る時に見た恋人の端正な横顔を思い出す。
ぼくの「ちょっと行って来るね」に返ってきた、書類をめくりながらのちいさな「ああ」は、どこか誘って欲しそうに聞こえたのは、多分気のせいじゃないだろうから。

「…だって、仕事残ってるって言ってたし…別に近所に買い物に出るだけのに、わざわざふたりで来る必要なんて無いし…」

何となくイイワケじみた独り言を口にのせてみる。
でも、そうは言いながら、ちょっとだけ後悔している自分をぼくは自覚していた。いや、後悔っていうのとは少し違うかもしれないけど…。

ふとした…本当に他愛もないこんな瞬間に、心を締め付けるような切なさを覚えてしまうのは…やっぱり幸せのなせるワザなのかもしれない。

一度彼のことを思い出してしまったら、もう頭の中が御剣だらけになってしまって…
ぼくはそのまま、御剣のマンションの方角へと向き直る。

「……やっぱり帰ろ」

もう一度、よいしょ、という掛け声と一緒に勢いを付けて持ち上げた荷物は、思わず持ち上がりすぎて視界を遮った。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ