ホ宝物展示場ホ書庫

□10月の花嫁
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「え、コスプレパーティー?」

初秋の成歩堂法律事務所。
今日もまた、ぼくの唯一の助手兼副所長が突拍子もないことを言い出した。
にっこり笑顔は可愛いんだけど、ぼくには全く理解できない思考回路をしていると思う。

「うん!もうすぐハロウィンだよー。ねえねえ、なるほどくん、パーティーしようよ!」
「いやいやいや。ハロウィンって日本のお祭りじゃないじゃないか。真宵ちゃんたちに何か関係あるの?」
「えー、別に宗教とかじゃないし、クリスマスみたいなもんだよ。ほら、トリックオアトリート、でしょ?」
「うわっ、抱きつくなよ」

大体、真宵ちゃんの提案を受け入れて碌な事はない。
だからいつも、ぼくは取り敢えず一度は断るようにしている。
……例えそれが無駄な抵抗だってわかっていても。
案の定、真宵ちゃんはぼくの言葉なんて聞きもしないで嬉しそうに飛びついてきた。
ばふっと細い身体を受け止めて、またか、とぼくは小さく溜め息を吐く。

「だって、お菓子をくれないといたずらしちゃうんだよ?ちょーだい!お菓子ちょーだい!」
「まだハロウィン当日じゃないって」
「ちぇっ。つまんないの。あーあ。早くパーティーしたいな」

ぼくの腕の中で真宵ちゃんがぷくっと頬を膨らませる。
19歳、だよな?この子。
お菓子を欲しがったり、パーティーをしたいって駄々をこねたり、すぐつまらないって拗ねてしまう姿は、とても年頃の女性には見えない。
色気も何もあったもんじゃないし。
まあ、だからこそぼくは真宵ちゃんとこんな風に和やかに接していられるのだろう。
彼女がこんな子じゃなかったら、きっとぼくは、とても無事ではいられないに違いない。

……ここにはいない恋人の、眉間に皺を寄せた顔を一瞬思い浮かべて、苦笑する。
何しろ、あいつの嫉妬深さは尋常じゃないんだ。

「うーん……。何か納得いかないんだけど……。まあいいよ、パーッとするか。で、真宵ちゃんは何のコスプレするの?」
「えへへー。あたしはピーターパンかな。ハミちゃんはすっごくかわいい妖精の衣装だよ」
「ふーん……」

真宵ちゃんが胸を張って偉そうに言う。
相変わらず育ってないね、とチラッと彼女の胸元を見て思ったことは秘密だ。

ピーターパンに妖精ね。
確かに二人とも似合いそうだ。
性格に少々問題があっても、二人とも見た目は可愛いからね。

「なるほどくんは何にするの?お化けとか?あ、でも魔女もいいね」
「魔女…?ってそれ女の子用だろ?やだよ、ぼく女の子の格好なんかしないよ。どうせやるならドラキュラとかがいいよ」
「えー、ケチ。絶対似合うと思うのにな。魔女って」
「絶対イヤだから」

膨れ面をした真宵ちゃんをどうにか黙らせると、ぼくは顎に手を当てて考える。

コスプレ衣装か…。
どうやって入手しようかな。
ん?
そういえば、こういうことに飛びつきそうな奴がいたな。

目の前で、まだ何かを喚いている真宵ちゃんを完全に無視して、ぼくは一人ああでもないこうでもないと考えを巡らせるのだった。
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