貢ぎ物

□旅とロマンス
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ある日突然、御剣から
「短期だが夏休みが取れた。君さえ良ければ、二人きりで小旅行等はいかがだろうか?もちろん誘った以上、全ての費用は私が負担する。」
なんて連絡が来た。

旅行かぁ…そういえば、経済的にも余裕が無くてここ数年行かなかったなぁ…。
まぁ、こんな仕事をしていれば、当然時間の余裕なんかも無い訳だけど。

しかし…
『御剣』と『二人きり』…

そう考えた途端、急に嬉しく思えてしまった『乙女思考な自分』が恥ずかしかった…

   *   *   *

旅行当日。
僕からのリクエストで、車ではなく電車で行く事にしていた(御剣だって、たまには景色を楽しみたいだろうし)。
「国内で二泊三日位の旅行なら、君にも楽しんでもらえると思ったんだ。」
「…海外では君が困るだろうしな。」
「失礼だな!英語なら出来るぞ!……ほんのちょこっとだけど…」
「君らしいな…」
そう言って、御剣は口元を緩くほころばせた。
『オフの日の御剣怜侍』は、普段なら絶対他人に見せないだろう、柔らかい表情とラフなスタイルで僕に接してくれる。
…それにしても、今の御剣の雰囲気は、まるで【VIPが『お忍びのデート』に行く】様な感じがする。
いや、実際そうだけど…

…そう、なのかな…?
確かに僕達は『恋人同士』にあたるけど…

そこで再び恥ずかしい様な、いたたまれない気分になってしまった。
「む…顔が赤い様だが、体調が悪いのかね?」
僕より少し体温の低い御剣の、すらっとした綺麗な指が僕の額に触れたから、
「大丈夫だよ、ちょっと陽射しが強いからさ…」
なんて言い訳しながら、余計赤面してしまった。
「無理をしてはいかんぞ、悪くなったら直ぐに言いたまえ…」
「あ、ありがとう。」
優しいなぁ…と思ったら、
「優しく労ってやろう…ベッドの中で、な…」
くすくすと忍び笑いしながら、とんでもない発言をかまされた。
「ばっ!バカ、こんな所で言うなっ!」
ロマンスカー式の電車の中はほとんど無人とはいえ、御剣から出た公共の場での不埒な発言に、僕の顔はこれ以上無い位熱くなってしまった。
あんなに響きの良い声で、耳元で囁く様に言われたら『前屈み』になっちゃうじゃないか!
もぅ…恥ずかしくて死ねる…

   *   *   *
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