逆裁王国パロ
□鮮血の落涙
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深い山奥に疎らな民家が並ぶ、リヴァーシア村。
この村の外れにある小さな古城は昔、領主エッジワース家の物だった。
だが、ある日突然一家が行方不明になってから荒廃し、風が吹き抜けると不気味な音が聞こえる回廊が余計に恐怖心を煽る為、
〔領主一家は『闇の鬼』(グール)に襲われた…突然命を奪われた一家の怨霊が、未だ城に住んでいる…〕
等という噂が囁かれ、地元の子供達が肝試しにこっそり訪れる以外は誰も足を踏み入れない、一種の幽霊屋敷として存在していた。
御蔭で、エッジワース家の末裔である『半ドランパイア』のレイジは、城に隠れ住んでいる間平穏な日々を送っていられた。
だが、ある日。
宝石を散り嵌めた様な星空に浮かんだ、獣が鋭く研ぎ澄ました爪の様な細く美しい月の、微かな明かりが差し込む部屋で。
「ぐぅぅ…こ、今宵も、またか…!」
レイジは、クラバットを握り締めながら喘いだ。
必死に吸血衝動を抑える為だが、外的要因で抑えられる程生易しい物ではない。
〔ドランパイアは、常に吸血衝動を抑えなければならない。もし人を襲えば、ヴァンパイアに成り果て、ハンターに狩られてしまう。〕
生前の父から、そう教わった。
ヴァンパイア等が行き着く先は、ハンターに狩られるか教会の人間によって消滅させられてしまうか、はたまたドランパイアに引き裂かれるか…。
哀れな末路か、上手く逃げ延びるか…平穏とは無縁の暮らしをするしかない。
〔ホシイ…血ガ、ホシイ…!〕
凶々しい衝動が叫んだ。
「ぐっ…もう…限、界だ…!」
耐え切れなくなったレイジは、遂に背中から翼を広げ、闇夜へと飛び立った。
山の夜風は冷たく、鋭い刃の様に吹き付けていたが、吸血衝動に駆られたレイジには痛みも何も感じなかった。
〔血ガホシイ!血ヲ、ワレニ…!〕
兇悪で醜い叫び声が頭に響いた時。
[ズドンッ!]
破裂音が微かに響いたかと思うと、翼に焼け付く様な痛みが走った。
「うぁっ!?」
そこで漸く理性を取り戻したが、傷付いた翼ではバランスを保てず、レイジは墜ちてしまった。
ボスッ、ドタン!
「わぁっ!?」
固い地面に墜ちると思ったが、幸か不幸か藁葺きの民家の屋根をクッションにしてから地面…もとい、床に墜ちた為思いの外軽傷で済んだ。
「あの…大丈夫?」
不意に、背後から怯えを含みながらも優しい声が聞こえた。
振り返ると…人間の男がいた。
「む…大事、無、い…」
「え!?大丈夫じゃない!?た、大変だ、早く手当しなくちゃ!」
「…」
どうやら聞き違いをした様だ。
彼の最初の質問からしてハンターではなさそうだったので、警戒を解いた。
理性が戻った御蔭で、吸血衝動も抑えられた様だ。