ぷよ小説
□8月25日
2ページ/3ページ
「……なに、これ?」
「あたしが作ったゴスロリ衣装よ。…あなた、よく似合っているわ。」
「…うれしくないっ…。」
手作りにしては綺麗に作られているこのフリフリの衣装。生まれて一度もスカートなんて履いた事がなかったシグは終始戸惑いまくりだった。いつもはズボンの下に隠しているはずの白い太腿は短いスカートの丈により惜し気もなく曝され、しかも下着も女性物に変えられてしまう始末。屈辱だ…。さらに服の寸法が1ミリの狂いも無いのは何故なのか。
「これ着てなにするの?」
「…いい質問ね。あなたは誕生日を友達に祝って貰ったことあるでしょう?」
「あるけど…それがなに?」
「今は夏休みよね…?その夏休み中に誕生日がある人、それはそれは気の毒なのよ。自分の誕生日はみんなに忘れられて祝われないの。」
「…かわいそう…。」
どうして今そんな話しをするのかはわからなかったが、とにかくジーンときてしまったシグは瞳をうるうるとさせている。
「(本当に可愛いわね)実はその残念な人が先輩なの。先輩はあなたのことが凄く気に入っているらしいから。あなた、全力で先輩をお祝いしてあげて。」
「…え、せんぱいって…。もしかしてレムレス…?」
「そうよ。」
え…?レムレスって、あのレムレス?ひまさえあればプリンプにやってきてお菓子をばらまいて行くみんなにやさしいお兄さん?それともほうきにまたがったまま教室に突っ込んできて笑いながらぼくを追いかけ回してくるこわいお兄さん?
「…どっち?」
「な、何がどっちなのかしら?レムレス先輩は一人しかいないでしょ。」
そっか、レムレスって一人なんだ、へぇ…。
これまでレムレスから数々の奇行の被害者になってきたシグがここで現実逃避したいと思うのも心底、頷ける。トイレで鉢合わせれば“僕がトイレするの手伝ってあげるよ”と個室に連れ込まれそうにもなったし、廊下で出会ってしまったら“それ、暑いんじゃない?脱がせてあげるよ”とズボンを脱がせようと追い掛け回されたりもした。そのときはクルークやまぐろがたまたま近くにいて助けてくれたが今はそうじゃない、…大変危険だ。
「…もう帰っていい?」
「今さらそんなの駄、目、よ。却下するわ。」
「フェーリはぼくがどうなってもいいの…っ?」
「むしろ、あたしは何かが起こることを期待しているわ。ちゃんと外から見ててあげるから大丈夫よ…。」
…見逃してくれる気などさらさら無いらしい。そしてとうとうシグはフェーリに連れられてレムレス宅に向かって行った。…辺りに小さな鳴咽を響かせながら…。
「…さあ、着いたわ。」
「おっきい家…。」
バルトアンデルスの背に乗り、暑い陽射しの中しばらく走っていくと大きな家に着いた。庭には薔薇が咲いていて、噴水まである。まるでお伽話に出てくるような綺麗な外装。
中庭まで歩いて行くと途中でバルを帰らせる。可哀相だったがバルはレムレスが嫌いな為に会った途端に何を仕出かすかわからないからだ。ばいばいと手を振ると悲しげな鳴き声をあげて走っていった。
そうして玄関までたどり着き、チャイムを数回鳴らすと…
「はいはい。あれ…フェーリと、もしかして、シグ君かな…?」
間もなくしてレムレスが家の中から出てきた。フェーリの後ろにしゃがんで隠れているシグを目敏く見付けてニマリと微笑む。
「先輩、お誕生日おめでとうございます!それで…この子はあたしからのプレゼントです。」
「…え……!」
「ふふ、シグ君をプレゼントしてくれるなんてさすがだねフェーリ。嬉しいよ、ありがとう。」
「…わあっ…!」
後ろに隠れていたシグをフェーリがレムレスの前に押し出すとシグはふわりと簡単に抱き上げられ、レムレスの腕の中に収まってしまった。じたばたと暴れてみても全く歯がたたない。