ぷよ小説
□家庭教師=笑顔+お菓子
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自分の知り合いでは無い人間が家を訪ねて来ることがこんなにも緊張するとは思わなかった。
現にリビングの椅子に何故か正座をしている自分がいるし、手の平は少し湿っている。鉛筆もちゃんと削ってあるかチェックしたり、律儀にも教科書やノートまで取り出してテーブルに広げてしまっていた。
他人が来るというだけなのにどうしてこんなにも心が掻き乱されるのか…。とても嫌な気分だ。
…まだ間に合う、窓から覗く虫を追って今すぐ逃げ出してしまいたい…
……ピンポーン…
時計の針が6時を指している。どうやら家庭教師が来てしまったようだ…。
居留守を使う事も出来るが兄の想いを考えると、…やはり授業を受けた方が良いだろう。
………ガチャッ…
「やあ、こんばんは。君がシグ君だね。今日から一ヶ月、君の専属家庭教師を務めさせてもらうレムレスだよ。宜しくね。」
ドアを開けるとそこには細いストライプが入った黒のスーツを着こなし胡散臭い笑顔を浮かべた自称家庭教師がいた。
(こういうときは、たしか…)
「…ん?どうしたのかな?」
「めんきょ、見せて。」
「ふふ、僕を疑ってるの?しっかりした子だね。ほら、免許証だよ。」
鞄からカードケースを取り出し、中にあった教員免許証をシグに差し出す。
「本物か偽物か、シグ君はどちらか解るのかい?」
レムレスから受け取った免許証をしげしげと眺めたり触ってみたりするものの、全くわからない。運転免許証なら魔物に触らせて貰ったことはあるが…。
やはり無謀だった。
「……わからない。」
「うん、そうだね。今では偽物でも精密に造られているから、表面の感触や目視だけでは見破れないんだって。…え〜と、お家の人は誰か居るのかな?」
「まもの、お仕事に行っちゃった…」
「…え……魔物、…って…。そっかぁ。あ、ちょっと待ってね。」
レムレスがニタリと口端を歪めたように見えた…が、くるりとシグに背を向け鞄から携帯を取り出すとシグから少し離れて何処かへと電話をかけ始めた。
会話は小さく、レムレスの声は聞こえてこないが電話の相手が時々怒鳴っているような…そんな声が聞こえてくる。
そして暫くして話しが済んだのかレムレスはシグに近付いていき、持っていた携帯をシグの耳に当てた。
「はい、シグ君。電話代わってくれるかな?」
「え…。もしもし…。」
『シ、シグかっ!無事だな!まだ何もされていないな?!』
電話の相手はなんと自分の兄だった。これは一体どういう事なのだろう。しかもかなり取り乱している様子だ。…取り敢えず目の前にいる自称家庭教師が本物かどうか尋ねてみる。
「この人が家庭教師ー…?」
『…うむ…。そう、なのだが…。』
………今まで散々疑ってしまっていた家庭教師は本物だったという。真実を告げられ、背筋が凍った。
「そう、なんだ…。」
にこやかに、笑顔を絶やさず対応してくれていたレムレスだが心の中ではきっと憤慨して怒り狂っていたことだろう。