ぷよ小説
□うさぎとおおかみA
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…あれからどのくらい時間が経ったのでしょう。
(……いたい…。)
崖から落下してしまったシグでしたが、落ちた場所に深い草むらが生い茂っていたのが助かりました。
草むらをクッション代わりにして着地、運よく軽傷ですみました。
けれど、地に落ちた衝撃で腹を痛め、さらに大事な脚をも痛めてしまってシグは動くことが出来ません。
唯一動かせる部分といえば自慢の長い耳と、常にぴるぴるさせている鼻だけです。
打つ手立てが無くなると、ころりと寝返りをうち、夜空を見上げてぼんやり星を見つめるシグ。
「…ふあぁ…眠い。」
いつも通りに今日を過ごせたなら今頃柔らかい干し草のベッドの上ですやすやと寝ている時間なのでしょう。
あくびの後、眠たそうに睫毛をしぱしぱとさせて身体を丸め、襲い掛かってきた睡魔にうとうと。
こんな危険な状態で眠りについてはいけないのですが…、
「…くぅ、くぅ…。」
さっきまでおおかみ達に追いかけ回されていたのにシグには危機感というものが備わっていませんでした。
そしてシグが眠りについてしまった頃、夜空には真ん丸で大きな月が浮かんで暗闇に包まれていた森全体を明るく照らし出し、草むらからちょこんとはみ出しているシグの長い耳がはっきりと見えるようになってしまったのです…。
シグの耳がまる見えになった3時間後に、そこへさっきとは別の藤色のおおかみがやってきてシグの耳を発見してしまいました。
「…おっ、こんなところにうさぎちゃんがいる!」
うひょうラッキーと草むらから突き出ている空色の耳をむんずと掴んで引っ張りだし、それでもすぴすぴと寝ているシグの顔を近くでまじまじと眺めました。
「…あぁ、可愛い寝顔っ。まだ子うさぎなのかぁ…、ちょっとかわいそうな気もするけど…。」
子うさぎのお肉って柔らかくて美味しいんだよねー。
じゅるりと口端から零れそうになったよだれを腕で拭ってシグを肩に担ぎ上げたおおかみは上機嫌で来た道を戻って行きました。
「…うー…ん…。」
…ふぁ…いいにおい。干し草のにおいだぁ…、やわらかい…。
でも夕べは確かに硬いちくちくした葉の上で眠っていたはずなのにシグはそれを気にも止めず、柔らかい干し草のベッドでコロコロと寝返りを繰り返すばかり。
一晩ぐっすりと眠って腹痛は治ったようですが…
「…いたっ。」
脚の痛みは消えてはいませんでした。
昨日は珍しく全力疾走してしまっただけに疲れてしまい、まだ眠たかったのですが脚の痛みを感じたと同時に眠気が覚めてコロンと干し草から転がり落ちてしまいました。
「…ここ、どこだろう。」
のそっと起き上がったシグは見覚えのない家の中を一度ぐるりと見回します。
鼻を仕切りにぴるぴると動かして、辺りの様子を伺うように耳をアンテナ代わりに痛む脚を庇いながら部屋を出ました。
「…おやおや!うさぎちゃん、もう平気なのー?」
「え、え…。」
部屋を出た途端、シグの目の前におおかみがにゅっ…と現れて…。驚いたシグはそのまま仰向けに倒れて思わず死んだふり。
「…何してるのー?」
「し、しんだふり…。」
「おぅ…それはかわいそうに。だったらせめてボクが美味しく食べてあげよう!」
「…うそだもん…。」
なかなかユーモアのある明るい性格のおおかみのようです。
「あ、脚が腫れてるようさぎちゃん。痛いのかな?」
「…うん。いたい…。」
「ちょっと待ってて。」
おおかみはシグを寝かせていた部屋に入ってタンスを開けて中から薬箱を取り出してシグの傍に座ります。
薬箱から包帯と塗り薬を手にしたおおかみはシグの脚に薬を塗りたくって、その上から包帯でくるくると巻いてあげました。
まさか治療してくれるとは思っていなかったシグはおおかみの行動にとても驚きました。
「ぼくを食べないの?」
「食べないよ、ボクはうさぎの肉より捕れたての魚が好きだからっ。」
「…ほんとに?」
「本当だよー。あ、誰か来たみたい。うさぎちゃんはここにいた方が良いかもね!」
と、おおかみはシグに言い残して寝室を出ていってしまいました。
Bへ続きます…