ぷよ小説

□相思相愛、だから…
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朝、カーテンの隙間から漏れる眩しい朝日を浴びてシグは勢いよくベッドから跳ね起きた。

「…はぁ…っ。」

珍妙な夢を見てしまったのだ。それも簡単には口に出せないような内容の夢…。特に気持ち悪くは感じなかったものの、夢で出てきた相手とは今日も明日も絶対に顔を会わせる場所に行かなくてはならない。…ほんの少しだけ…気が重くなった。


魔物の手作り弁当を鞄に入れて重い足取りで学校に出掛ける。通学の途中、飛んでいく蝶々を見付けても追いかける気力すら湧かなかった。

学校に着いて階段を上り、あとは教室へ入るだけなのだけど何故だか緊張してしまう。手が震えて扉が開けられない…。


(もう…席に座ってるよね…)


「…あり?シグちゃん、教室に入らないの〜?」

「まっ…まぐろ…。」


声を聞いただけで過剰反応をおこしてしまう…。変に焦った気持ちになり、夢の内容が鮮明に蘇ってきてまぐろを見返すことができない。普段と違う、早い速度で心臓がどきどきと忙しく動いて苦しい。


「ほらほら、シグちゃん。一緒に教室に入って…あの二人怪しい〜って、噂されようよっ。」


シグがこんなに取り乱していてもまぐろはいつもと変わらず、軽いスキンシップのつもりでシグの肩を抱いて教室に入ろうとするが…、


「は、はなしてっ…!」

ぱしんっ…


「…シグちゃん…?」


直後、肩に触れたまぐろの手を振り払う。そのシグらしくない行為にまぐろは驚いていた。でも一番驚いていたのは他でもない本人…シグで…。まぐろの手を振り払ってしまったことで胸の苦しみはいつの間にか痛みに変わりずきずきと自分を蝕んでくる。こんな感覚は生まれて初めてだった。


「…ま、ぐろ。…ごめんねっ。ごめんっ…!」

「シグちゃんっ…?!」


その場に居るのがいたたまれなくなり走り出していた…。教室と自分を呼んでいるまぐろがどんどん遠くなっていく。脚は止まろうとはしなかった。



一気に階段を駆け上がり、着いた先は屋上。扉を押し開けると先着だったハト達がいっせいに空へと舞い上がった。悪いなと思いつつ、青いフェンスにもたれ掛かって深呼吸をする。

痛みはまだ治まらない…。


「ぼくがっ…、あんな夢、見るから…。」


夢の内容はベッドの中でまぐろがシグを押し倒し、キスやその先を迫るというものだった。しかも夢で見た自分の表情はとても嬉しそうな笑顔を浮かべていたのだ。

自分はまぐろにあんなことをされたいと願っているのだろうか。だから夢にまでなって出てきたのだろうか。



「シグちゃんっ、いる〜…?」



はぁはぁと息を切らしながら屋上にやってきたのは、やはりまぐろ。フェンスにもたれ掛かっているシグを見付けると側に駆け寄ってきた。


「ねえ、ボクっ…シグちゃんに何か嫌われるようなことしちゃったかなぁ…?」

「…まぐ、ろっ…。」

「ならすぐに謝るから、お願いっ…ボクを嫌いにならないで…!」



今にも泣いてしまいそうな、そんな震えた声で必死に謝ろうとするまぐろの姿を見て、シグはたまらずに泣いてしまった。

傷付き、戸惑っていたのは自分だけではなかった。大好きなまぐろを自分が傷付けた事実に泣いてしまったのだ。

まぐろはおろおろとシグの様子を見守っていたが、一歩踏み出してシグに近付いた。また拒否されたらどうしようと不安でいっぱいだったがもう一度、肩を優しく抱いてあげる。するとシグはまぐろの胸に飛び込んできてぎゅうっと抱き着き、ごめんね、ごめんねと呟きながら縋り泣いた。

それからしばらく時間が経って、ようやくシグが落ち着いてきた。鳴咽がなかなか止まらないが言葉の受け答えはできるだろう。


意を決して、シグに話しかけてみる。


「…それで、ボク…。何かしちゃったのかな…?」

「なにも、してない…っ。」

「よ、良かった…。じゃあどうして…?」

「…夢を、見ちゃって…。まぐろとぼくが…その…っ。」

「エッチしてる夢とか?」

「……っ。…そ、そう…。」



ずばり言い当てられて頬を真っ赤に染めたシグは恥ずかしさのあまりまぐろから視線を反らし俯いてしまう。初々しく可愛いシグの反応にまぐろもポッと顔を赤らめる。


「それって、シグちゃんがボクのこと好きだからじゃない?」

「ぼくは、…まぐろが好き…?」

「そう!だから、やらしい夢見ちゃったんだよたぶんっ。」


シグちゃんの身と心は、ボクに飢えていたんだよ〜。軽くさっぱりと言ってしまえば、いやらしさも何も感じない。


「…まぐろは、ぼくが好き?」

「もちろんさっ。だからボクなんて、シグちゃんとエッチしてる夢をたくさん見ちゃってるんだよ〜。」

「そうなんだ…。」

「そのおかげで朝はちょっと忙しくなるしっ。」

「…?」



最後のまぐろの言葉の意味がシグには理解できなかったが、確実にわかったことが一つ…、



「ボクたち、両想いだったんだね。」



初めて聞いたまぐろの真剣な声は凛と清んでいて、心地いい。再び真っ赤になったシグとまぐろの視線がまじわったとき、二人は屋上でキスを交わした。


そして二人は昼休みになるまで授業をサボり、お互い抱きしめあいながら愛を囁いていた。



END

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