ぷよ連載小説

□第ニ夜 銀色の蝙蝠
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これからよろしくね、だってさ。ずっと屋敷に篭りっぱなしで勉強して、友達なんて一人もいない僕にとってシグのその言葉はすごく嬉しかったんだ。…なんだかこれから先もシグが一緒に居てくれる気がして、僕は舞い上がっていたんだ。でも、現実的に考えると非力な人間であるシグは僕よりも歳をとるスピードがうんと速いからどんどん大きくなってしまうんだ。そしてやがてはシグは死んでしまうんだろうな…。…僕らは結局、一生を孤独に過ごさなきゃいけないんだ…。



「ねえ、クルーク。」

「…あっ、なんだい…?」


…いけない。つい物思いに耽ってしまった。シグはコウモリ達と戯れながら僕に話し掛けてきた。…本当によくなついてるな。

主としての威厳が無くなった気がするよ。



「今日、泊めてもらってもいい…?家に帰れないから…。」

「あぁ…そんなことか。それなら泊まっていくといいよ、余ってる部屋もあるし。」

「わぁ…ありがとう、クルーク。」


それにしても、このシグという人間は結構可愛い顔の作りをしている。空色の髪も艶やかでキレイだし、珍しいオッドアイもとても魅力的で思わず見とれてしまう。

人間は確か、果てしなく地味な生き物のはずなのに何故かシグはこんなにも華やかだ。

…綺麗な顔の両親に恵まれたんだろうな…って、失礼だよね。



「クルークと一緒に寝てみたいかも。」

「ぼっ、僕っ…?なんでっ?」

「…今までずっと一人だったから。」

「……そう、なんだ…。」



…あぁ、シグも僕と同じ寂しい思いをしてたんだな…。けれど、けれどね…


「…残念だけど、それは…ちょっと…。」

「どうして?」

「そ、その…。」



…言えないっ、僕の寝床は真っ暗な場所…地下にあって尚且つ寝具が棺桶だなんて!そんなのシグが見たら絶対、気味悪がるよっ。なんとか言い訳をしないと…!


「…僕の部屋はトマトで散らかってるから駄目なんだ…。」


…で、咄嗟にでた理由がこれだ。なんだよ部屋がトマトだらけって…。僕そんなにトマト好きじゃないよ。


「ならしかたない。」

「……悪いね。」


うわ…。ごまかせたみたい。すごい心苦しいよ…。でもしょうがないよな、僕が吸血鬼だってシグに知られたらこの濃霧の中でも構わずに怖がって出てっちゃうかもしれない。

別に僕が吸血鬼であることを隠すわけじゃないけど今このタイミングではまずいからね。

…シグが明日の夕方まで屋敷に居たら正直に話そう…。



「…そうだ、風呂にでも入ってきなよ。疲れただろ?」

「お風呂があるの?」

「え、うん。シグの家にはないのかい?」

「ない。シャワーだけだった。」

「それならゆっくり浸かっていくといいよ。」

「ありがとうクルーク。じゃあ行ってきます。」



椅子から立ち上がったシグはコウモリ達に連れられて風呂場へと向かっていった。

「あ、バスローブ…。これを持っていってあげて。」

…キィ、キィ、キィ…


残っていた二匹にシグの着替えのバスローブを渡して脱衣所へ持っていかせた。


「…さて、部屋の準備をしようかな。」


他の部屋なんて随分使っていないからきっとホコリだらけだ。シグが風呂から上がるまでに綺麗に整えておかなきゃ。

コウモリ達に手伝って貰おうかと思ったけど、全員シグに着いていってしまったらしい…。

ほ、ほんのちょっとだけ羨ましい…なんてねっ…!










「ふぅ…、気持ちいいー…。」


クルークの家のお風呂はすごい。このシャワーは冷たい水と、温かいお湯がどっちも出せるしスポンジも柔らかい、石鹸も良いにおいがするし…バスタブも手足を伸ばせるくらい広い…。

「どうしてぼくの家はシャワーだけなんだろう。」

ランプの明かりに照らされながらぷかぷかとお湯に浮かんで、ぼんやりとそんなことを考えていたら…

「…あれ、あんな子いたっけ?」


ふと目に付いたのは一匹の少し小さめのコウモリ。綺麗な宝石のような瞳でシグを静かにじっと見つめている。


「こっちにおいで…。」


温かい湯の中からバシャッ…と片手を差し出してコウモリを呼ぶ。小さなコウモリは少し間をおいた後、羽ばたいてシグの手の平に着地した。

間近でそのコウモリをよく見てみると、やはり瞳は何かの宝石で出来ているようだった。


「きれいな目は元々なんだね…、よかった…。」

…きゅう…


水晶の瞳は実験や改造ではないらしい。珍しい銀色のコウモリは一度、か細い声で鳴くと薄汚れている翼をあたたかい湯舟に広げて毛繕いを始めた。



やがてコウモリは毛繕いを終えると浴室の窓をカリカリと引っ掻きだした。たぶん、外へ出ていきたいのだろう。

だが、その濡れた身体で外に出てしまえば冷えて風邪を引いてしまうかもしれない。

シグはコウモリを傷付けないように手の平で包んで乾いたタオルの上へ移動させ、丁寧に優しく水分を拭き取ってあげた。


「ばいばい。」

……きゅーっ…!


毛に付いた水分が無くなり、身体が軽くなった銀色のコウモリはシグの鼻に豚鼻をぐりぐりと押し付けると、シグが開けてくれた窓の外へ元気に羽ばたいていった。
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