ぷよ小説
□うさぎとおおかみD
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突如、目の前に姿を現した赤茶色のおおかみにシグはぽかんと口を開けたまま、そのおおかみを見上げていました。
するとおおかみも同じく、クッキー缶を拾い上げたそのままの姿勢を崩さずに小さな空色のうさぎ、シグを眼鏡の奥の赤い瞳でじっと見つめていたのでした。
「お前はこれが好物なのか?」
先に沈黙を破ったのはおおかみの方でした。
自分がおおかみであるのにも関わらず、逃げもしない叫びもしないシグに少し興味が湧いたのです。
しかも、少々…いえ、大分可愛いらしい容姿をしています。
餌としては不十分、愛でる要素は言葉では言い表せないぐらいたくさん浮かんできます。
「…うん、クッキー好き。だから返して?」
今までいろんなおおかみに出会ったシグだからこそ、返事が出来たのでしょう。
そんな肝の座ったシグに、おおかみは…
「…よし、お前が気に入った!今すぐ交尾しよう!」
「こ、こう…び?ぼくオスだけど…。それにうさぎ」
「子供はたくさん欲しい!」
「う、うへー…。」
「大丈夫だ、安心しろ。ここら一帯は全て私の縄張りだ。天敵に襲われる心配はないぞ。」
「お兄さんに引き続き魔物ちゃんもきもっ、気持ち悪いっ。」
「…気持ち悪くなどない!」
そしていつの間にか現れていたまぐろを巻き込んでの口論が始まりました。
おおかみの中でもずば抜けて温厚な性格のまぐろに再び出会う事が出来て、シグはとても嬉しそうに笑顔を綻ばせます。
「まぐろっ…。」
「シグちゃん!お兄さんに変なことされなかった?どこも怪我とかしてない?」
「うん、大丈夫。もう足も痛くないよ。」
まぐろが塗ってくれた薬が良く効いたのでしょう。だから、さっき走っていたときも痛みを感じなかったのです。すっかり汚れてしまった包帯をしゅるりと解き、まぐろに手渡すシグ。
「シグちゃんえらいえらい!でもね、包帯は一回使うともう使えないんだ。だからこれはお家に持って帰って破棄!」
「捨てちゃうんだ。」
「うん。」
「捨てるぐらいなら私が貰おう。」
「変態は黙って。」
フンフンと鼻を鳴らしてなんとか包帯の匂いを嗅ぎ取ろうとしている変態おおかみに素早く突っ込みを入れます。
チョップ付きで。
「ふぅむ…しかし愛らしいな。もふもふしたい。…よし、シグ抱っこしてやろう、こっちに来い。」
「やだぁ。」
「な、なんだとっ!?反抗期か!」
「ただ単に魔物ちゃんが嫌なだけでしょ、シグちゃん。」
「うん…。だって…血だらけだから…。」
「はっ…!」
…そういえば…シグに出会う、ついさっきまで食事をしていた事を思い出した魔物は、自分の身体の所々に血がこびりついているのを発見。
これ以上シグに怖がられるわけにはいきません。
「ち、違うんだこれはっ!…これは…その……ケチャップだ。」
「見え見えの嘘は止めて、そこを流れてる川に飛び込んで洗い流せばいいじゃないっ。」
「…この川にピラニアが住んでいるとわかっていての提案か貴様!」
「えぇ〜、そうだったっけ?知らなかったよボク〜。」
ぴゅ〜と、わざとらしい口笛まで吹いて無実を貫き通したまぐろはシグをひょいと持ち上げて踵を返し、家へ帰ろうとしています。
そんなまぐろの肩をすかさず掴んだ魔物。
「ちょっと待て。シグを置いて帰ってもらおうか?」
「それは出来ないよ〜。お兄さんと同様に魔物ちゃんもあやしいからさ!」
「あやしくない。シグ、私と一緒に暮らさないか?きっと楽しいぞぅ。」
「楽しいならいいかも。」
「だ、ダメダメ!シグちゃんダメだよ!計画制が全くないよ!それに魔物ちゃんはガッツリ肉食だし、もしかしたら食べられちゃうかもしれない!」
その点ボクは魚しか食べないから安全だよ、間違ってシグちゃんを食べちゃうなんてことないからねと力説するまぐろ。
「それに、ボクのお家には暖炉があるからとっても暖かいし冬でも快適だよ。」
「何をっ、私の家にはこたつがあるぞシグ。」
「こたつはダメ!一度入ったらなかなか出られなくなる魔性の電気製品なんだから〜っ。」
「こたつ、ぼく知らないから見てみたいな。」
「よ〜しよし、よく言ったシグ。さあ、私の家へ一生住み着くといい。そして伴侶となるがいい。」
「はーいっ。」
「元気よく返事しちゃダメ!」
ぴっ、と耳と手を上げ元気に下心満載の魔物に返事を返すシグを止めようと注意をしたまぐろでしたが、シグは魔物の手によりまぐろの腕の中からひょいと抱き上げられて連れ掠われてしまいました…。
「…血のにおいやだ…。」
「す、すっかり忘れていた!」
Eへ続きます…