ぷよ小説

□メイド喫茶に行ってみました
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「ほらぁ、シグここだよ!」

「めいど…喫茶…?」

「最近とても評判のある喫茶店なんですよ。…女性限定ですけど。」


テレビで見たことはある。

従業員全員が西洋の特徴がある召し使いの正装…つまりメイド服を着こなし、来店した客は別に従業員と上下関係はないのだけれど、お帰りなさいませお嬢さまご主人様と深々と頭を下げ玄関まで赴いて挨拶してくるあれだ。

まさかそんな店が現実にあるだなんて思いもしなかったのだシグは。テレビの中だけの話しだと思っていたのに、どうやら実在していたらしい。

リデルとアミティに美味しいケーキを食べに行かないかと誘われ、着いて来て唖然とした。


「ほらほら、中に入ろう!」

「素敵なウェイターさんが居ますよ!」

「う、うん。」


アミティとリデルにそれぞれ手を繋がれ、アンティーク調の扉を押して店の中へと入る。

カラン、カランとベルが音をたてて来客がきた事を従業員に知らせる。すると…


「お帰りなさいませ。お嬢さま、旦那様。」


テレビで見た通りの低姿勢な態度、改まった様子で自分達の事を“お嬢さま”“旦那さま”と言った。

しかし一体、いつからこのウェイターと自分はこんな関係にあったのだろうとか、そもそも初対面なのにだとか…シグの頭上には小さなヒヨコが2、3羽ぐるぐると綺麗な円を描いて飛んでいた。


「…あ、シグの頭から煙りが。あとヒヨコも!」

「きっと、初めてこのお店に来たからシグ君、混乱しているんですね。」

「アミティ…リデル…がおじょうさまで、ぼくがだんな、さま…?」

「そうですよ旦那様。…もし宜しければ、ボクがこの喫茶店の特徴をお教えしますよ?」

「………え…。」


リデルの言う通り、すっかり混乱してしまったシグにウェイターが近付いて親切な事にこの店について詳しく説明してくれるというのだ。


「でもケーキ食べたいから。」

「…では、あちらでボクと一緒に召し上がりましょう。さあ。」

「ア、アミティ…。」

「行ってらっしゃいシグ!」

「…リデル…。」

「私達はスペシャルケーキを楽しんでいますのでシグ君もごゆっくりー。」


うふふあははと二人は奥からやって来た別のウェイターに導かれテーブルへ移動。

あっさりとその場に残されたシグはウェイターに参りましょうと手を引かれ、別の部屋へと連れていかれていった…。






「…お兄さんっ!」

「なぁに、まぐろ君。今営業中で勤務中でしょ?サボるのはよくないな。お給料引くよ?」

「ううん!サボってないって!真面目にお仕事してるよっ。」


連れていかれた部屋はどうやらこの店の主の部屋らしい。デスクには電話機やパソコン、コピー機やペンタブなど電器に囲まれた部屋で主は仕事をしている様子だ。

話しは口で、目はスケジュールの確認、キーボードは指でと使い分けて仕事の効率をはかっているよう。

この店のウェイター服を着ているということは主は喫茶店にも顔を出す、ということなのだろう。


「ほらほらっ、こっち見てよ!お兄さんが探してた可愛い子がいたんだよっ。男の子!」

「…ふぅん…。…どれどれ?」


椅子がくるりと回転し、主がようやくシグの前に姿を現した。

少し長い銀髪を後ろにリボンでシンプルに結び、眼鏡をかけた美形。10人中10人が美形だと叫ぶくらい美形だった。それもウェイター服が最高に様になっている。

シグは主に数秒の間、じっとり頭の先から足の爪先まで見つめられた(瞼は閉じているけれど)。


「うんっ、とても良い感じの子だね。…勧誘してきたの?」

「ううん!お客…旦那さま!」

「まぐろ君…クビにするよ?」

「な、なんでなんで!?凄く可愛い男の子なのにぃ…。」

「ぼく可愛いくないよ。可愛いのはリデル。」

「いいや、君はとても可愛いよ、物凄く僕の好み…じゃなくて。まぐろ君、この子は旦那さまとしてこの店にいらっしゃったんだから勧誘するなんて失礼だよ。」

「…あー、う…そっかぁ。申し訳ありませんでした、旦那さま…。」


まぐろと呼ばれていたウェイターは主にこってりと叱られシグに深々と頭を下げた。

それもかなり反省している様子で、頭を下げたまま、なかなか戻らない。


「もういいのに。よしよし。」

「うぅっ。だんなさま…!」

「…それで、きみにお願いがあるんだけどさ…。」

「なに?」

「(上目使いはぁはぁ)僕たちを助けると思って、この喫茶店で働いてもらえないかな?今人手不足なんだよー。」


なんて真っ赤な嘘だが、主はどうしてもシグを店で働かせたがった。


「僕のお店、時給良いんだけどな。」

「……じゃあやってみる。」

「本当にっ!?うわぁ、嬉しいな…!はい、これ制服。隣の部屋で着替えてきてくれるかな?」

「はーい。」














「…そういえばシグ遅いね。」

「本当です…。アミさん、心配ですから少し様子を見に行きませんか?」

「そうだね。よし、ちょっと見に行こ…………シグ…?」

「……シグ君、素敵です…。」



アミティは顔を引き攣らせて大変驚き、リデルは口を両手で覆って瞳をうるうると煌めかせ、各々違った反応を素直に表面に出した。


「…アミティ、リデル…。学校のみんなには秘密にして…。」


30分後にようやくアミティとリデルの元に戻ってきたシグ。しかし今のシグの格好は…


「…なんで、メイド服っ…!」

「きゃあ!シグ君可愛いです、似合ってます!」

「…もう家に帰りたくなってきちゃった…。」

「駄目だよシグ君、6時までしっかり働こうね。じゃないとお給料出せないよ…。」

「あ、あう…。」



フリフリフリルがふんだんに使われた空色と白のアリス風メイド服、名札には青い文字でしぐたん(♂)を着こなしたシグは背後から店長のレムレスに肩を抱え込まれ、耳元で息を吹きかけられるような形でお叱りを受けた。

端から見ると、お叱りというよりもセクハラに近かったが、それには本人がまるで気付いていなかった。


…それからシグがこの喫茶店で黙々と働き始めた結果、女性客だけでなく男性客を呼び込む事にも成功し、シグのお陰で店の売り上げは大幅に上がったとか、なんとか…。



(因みにレムレスと魔物が夜の部を担当。お酒とか作ります。朝、昼はまぐろとクルークとシグ、時々レムレス、時々魔物で頑張っています。)



END

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