ぷよ小説
□うさぎとおおかみB
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「まさかまた君に会えるなんて思いもしなかったよ。」
「…うー…。」
「あんまり虐めちゃいけないよ、お兄さん。」
「わかってるよ!あぁ〜、本当に…食べちゃいたいぐらい可愛いなぁ。」
…びくびくんっ…!
おおかみの家を訪ねて来たのはあの日、シグを追い掛けてきた銀のおおかみでした。
銀のおおかみの名前はレムレスといいます。
空色のうさぎをどうしても諦め切れなかったレムレスは、微かなシグの匂いを鼻で辿ってきたというのです。
そして藤色のおおかみの家を訪ねてようやく君を見つけ出したんだと、隠れていた寝室の扉を開けてシグを見付けたレムレスはシグが“きゅう”と鳴くまで抱き絞めました。
そうしてくったりしてしまったシグをリビングまで運んで膝の上に座らせたのでした。
あの夜は逃げることに夢中だった為におおかみの顔を振り返る暇も無かったのですが、シグはあらためてレムレスの顔をじっと観察してみます。
「…ん、なんだい…?」
おおかみの割には綺麗な顔をしている、声音も穏やかで優しそうなお兄さんをイメージしたシグ。
しかし、頭の上に生えている立派な銀色の耳とズボンを突き破ってまで露出させているサラサラの尻尾を思い出してしまえば、優しいお兄さんもくそもありません。紛れも無く、うさぎの天敵であるおおかみでした。
「ぷるぷるしてて可愛いなぁ。僕が怖いから震えているの?」
…コク、コクっ…!
「フフ、素直な良い子だね…。でもそう露骨に嫌がられると僕、寂しいな…。」
「…ふあぁ…っ!」
自慢でもあり、実は敏感でもある長い耳を濡れた唇でくわえられてあまり体験したことのないゾクゾクとした不思議な感覚を怖がりだしたシグはじたばたと暴れ始めてしまいました。
「ほら〜、お兄さんがいやらしいことするからうさぎちゃん嫌がってるじゃない。…してなくても嫌がってたけどっ。」
「そんなこと無いよ。僕のあまりの格好よさに照れちゃってるだけだよ。…そうだよね…?」
ぱくぱくと柔らかい耳を甘噛みされたり、息を吹き込みながら耳を舐められたりとレムレスの変態行為はさらに拍車が掛かります。
「…やぁっ…やだ…っ。」
それにシグは耳をぱたぱたとはためかせてレムレスからのちょっかいを払おうしますが、効果はありませんでした。
「あー…、可愛い声なんか出して。…僕変な気持ちになってきちゃったよ、まぐろ君。」
「お兄さーんベルト外さないで。駄目だってば!」
「ちょっとだけ!ちょっと触るだけだから、良いでしょ?」
「駄目だって〜。」
「えぇ、お願いっ。あれだよ…少し舐めるだけにするから!」
「さっき舐めてたでしょうが。」
「み、耳じゃなくて…。もっとダイレクトな場所をだよ。レムレスの一生のお願いっ!」
「気持ち悪いよ〜、どんだけ必死なの。ほらほらお兄さん、うさぎちゃん返して。今からおやつの時間だから。」
「おやつ…?」
「知り合いから貰ったおいし〜い、木の実クッキーがあるよ!」
「わーい!」
シグは木の実入りのクッキーが食べ物の中で1番の大好物でした。
レムレスに抱えられてぐったり元気を無くしていたシグでしたが、そのクッキーの名を聞いた途端に表情がぱあっ…と明るくなりぴょんぴょんと跳びはね、力の強い脚力を活かし…
ビシッ、バシビシッ…!
「い、痛いっ!」
レムレスのお腹に数回蹴りを喰らわせ、力の緩んだ隙を見逃さずにするりとレムレスから抜け出しました。
そしてちょこちょことおおかみに駆け寄り、下からじっと見上げてクッキーをねだります。
「…あ、そういえば。ボクの名前まだ教えてなかった!」
「なまえ、おしえて。」
「ボクの名前はねぇ、まぐろっていうの。」
「まぐろっ。…ぼく、シグ。」
「じゃあシグちゃんだね。はいどうぞ、シグちゃん!」
「まぐろ、ありがとー。」
お互いの自己紹介を済ませたところで、藤色のおおかみ、まぐろから背伸びをしてクッキーを一枚受け取るとすぐに口の中へほうり込みポリポリと良い音を響かせてあっという間にゴクン、と飲み込んでしまいました。
「シグちゃん食べるの早いよー。もう少し、ゆっくり食べた方がおいしいよ〜!」
「おいしいーっ。」
「むっ…まぐろ君だけシグ君と仲良くしてずるいじゃないかぁ…!」
「お兄さんがシグちゃんにやばい願望を抱いてるからでしょ。だから警戒しちゃうんだよ。…シグちゃんに何したいか言ってごらん?」
「…飼い殺したいっ!」
…びくびくんっ…!
「ほらぁ〜。」
Cへ続きます…