ぷよ小説

□うさぎとおおかみ@
1ページ/1ページ




「あっ、四つ葉のクローバー見っけ。」


青い草原がひろがる野山の中、空色のうさぎがピョコンと草むらから顔を出して飛び出してきました。

うさぎの名をシグと言います。

シグはクローバーが大好物でしたが、数の多い三つ葉ではなく四つ葉を見付けて食べるのが最近マイブームになっているようなのです。

四つ葉なんて見つけただけでもラッキーなのに、さらにそれを食べることでさらに優越感を感じることが出来たようです。

でもたった一枚、クローバーを食べただけでは空腹は満たされません。


「…しょうがない、三つ葉も食べよう。」


クローバー畑にしゃがんで葉を一枚一枚摘み取って小さな口にほうり込んでもしゃもしゃ…と、のんびりゆっくり食事を始めました。

実はシグの食事のスピードはもの凄く遅いことで有名だったので、他のうさぎ達はシグと一緒には食事をすることはありません。

理由は、一点でのんびりし過ぎていると天敵に見付かって食べられてしまう可能性が増えるからです。

なのでいつもシグは食事をするときは仲間から離れた場所にあるクローバーの群生地で食事をすませるのでした。

しかし、今日に限って運が無い。四つ葉のクローバーを探している内に時間は刻々と過ぎていき、今ではとっぷりと日が沈んでしまってシグが食事を終えた頃には空に月が浮かんでいたのです。


「あー…晩くなっちゃった。」


急いで峠を下っていくシグ。夜の峠は強暴なおおかみ達の縄張りになっていて大変危険なのですが時既に遅く…


「…あっ…。」


多少の夜目が使えるシグは鼻をぴるぴると動かし、脚を止めて目の前に続いている暗がりの林道を真っすぐに見つめました。

前方におおかみの気配を長い耳でぴくぴくと感じとると、近くの草むらにさっと身を隠します。

そして暫くすると…


「はあ…、お腹減ったなぁ。最後にご飯食べたの三日前だよ。……クルークは…?」

「僕も三日前…。あぁ、久しぶりに柔らかいうさぎの肉が食べたい…。そこら辺にいないかな、うさぎ。」


……ぴくっ…


「まさかー!夜は僕らがうろついてるの知ってるから警戒して出歩かないって。…でも見つけたら小さくても食べちゃうかもっ。」

「それは僕も同じ。捕まえたら半分だからね、レムレス。」


……ぴくぴくっ…!


おおかみ達のお喋りと足音が近付いてくる度にシグの長い耳がまるで恐怖を表すかのように無意識にぴくぴくと細かに震えます。


「あっ、でも可愛いうさぎだったら違う意味で食べちゃうかも。それで家に持ち帰って飼い殺し!」

「一人占めは許さないよ!」

「んもう、わかってるよ〜。」


(…ちがう意味って、どういう意味なんだろう…。)


首をコクンと傾げてその意味を考えてみるシグですが、さっぱりわからず疑問が口からポロリと零れ出てしまい…


「食べる以外に何するんだろ…。」

「だから、下世話なことだよ。詳しく説明しなきゃわからないのかなクルークは。」

「…レムレス、僕何も言ってないよ。」

「…………。」



不審に思ったおおかみ達はシグが隠れている草むらの前で脚の歩みを止めてしまいました。

そしてなんと、辺りをキョロキョロと見渡して近くに何かが潜んでいないか捜索し始めたのです。


「…もしかしたら近くに居るかもね、うさぎ。」

「そうだね。頭の悪いうさぎだけど…。」

「あぁ…煮込んでシチューにしたいっ、美味しそう!」

「僕は丸焼き。噛り付きたい…。」


……ぴく、ぴくーっ…!


さて、シグが自ら掘った墓穴のせいでいよいよ危険な雰囲気になってきました。

とりあえずこの場から離れて、安全な場所まで移動した方が良さそうです。

ガサガサと草むらを掻き分けて獲物を探しているおおかみ達に背を向けて、こそこそ…静かにその場を後にしようとしたシグでしたが…


……ぱきんっ…


足元に転がっていた小枝に気付かず踏んでしまい、辺りに乾いた音をたてて小枝は折れてしまいました。

直後、背後から鋭い視線を一身に浴びたシグはおおかみ達から放たれる殺気に耐え切れず、一気に駆け出します。


「…はぁ…はぁっ…!」


シグはうさぎなのだけれど、走ることがあまり好きではありません。

ちょこちょこした狭い歩幅なのでこの通り、すぐにおおかみ達に追い付かれてしまいました。


「ほぉら、やっぱりいた。それも珍しい空色のうさぎっ。飼い殺し決定だね!」

「自慢もできるし、良いかもね…。僕も賛成っ。」


ぜえぜえと息を切らして逃げているというのに、おおかみ達は全く息を乱していません。

やはり、うさぎとおおかみでは体力もスピードも段違い。

もうすぐ後ろにまでおおかみはシグに迫り、腕を伸ばして捕まえようとしましたが…


「…あ、れ…っ。」


地を蹴っていたはずなのに…シグの脚は今、空中を蹴っている。

…前を見ずに走り続けていたシグは峠の端にある崖に気付かずに突っ込んで行ってしまい…。


「…わ、わぁーっ…!」


シグは重力に逆らう事なく、真っ逆さまに崖下へ吸い込まれて行きました…。



Aへ続きます…

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ