ぷよ小説

□はじめてのお使い
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※まぐろとシグが兄弟です





「ねえ、お兄ちゃんすっごく不安だよ…。シグちゃん、本当に本当に平気なの?」

「うん、平気。」

「うぅっ…。…シグちゃん、一人が怖いならボクにちゃんと言ってね!我慢してない?無理してない?実はお使いになんて行きたくなくないっ?」

「行ってきまーす。」

「ああっ…シグちゃーんっ!」





自宅である魚屋さんを飛び出して行ったのは長男のまぐろではなく、次男であるシグ。

シグはまだ6才と幼く、たった一人でお使いに行くだなんて危ないのではと思うのだが…

シグが頑なにお使いに行きたいと珍しく駄々をこねた理由はシグが毎日通う幼稚園にあった。

どうやらシグの友達であるピンクの巻き髪の持ち主が、わたくしこの間一人でお使いにいけましたのよ、おーほっほっほ!と安定しない高笑いをあげながらみんなに自慢してきたらしいのだ。

大人から見ればなんて可愛いらしいんだろうと思うが、まだ親や、兄弟姉妹としか買い物に出掛けたことがない園児達は羨ましげに彼女を見つめていたんだろうに。

…一人でお使いに出掛ける…。それは園児達にとっては魔法の言葉。きっと、普段とは異なる未知との遭遇を期待しているんだろう。

そんなこんなで小さな探求心に火が付いたシグは本日、唐突に一人でおかいものにいってくると言い出し、てんとう虫型の貯金箱の中に貯めていたお小遣いを取り出して街へと出掛けて行ったのである。

その後を急いで追いかけたまぐろだったが、小回りの効く小さな身体の持ち主シグは追跡してくるまぐろを楽々とまいた。


「…よし、行こっ。」


自分を見失い、オロオロと慌てているまぐろを眺めているのは中々楽しかったのだが本来の目的を達成するためにシグは再度、街中に消えていった。




「ぷよぷよー、ぷよぷよー、ぷぷぷぷっぷっよーぷーよー。」

空色の髪をたなびかせ、少しズレたテンポで今幼稚園で流行りの歌を口ずさみながらシグは商店街に姿を現した。

るんるんとリズム良くステップを踏み、そんなご機嫌な様子のシグと通りすがったお姉さんが振り向く程にたまらなく可愛いらしかった。その姿を天使と言っても過言ではない。

そんな可愛いらしい、美味しそうな子羊を見ていた欲望に飢えた狼が見逃すはずがなかったのだ。



「えへへ…。おかし、買っちゃった。」


商店街の一画にあった駄菓子屋で大好物の綿菓子を手に入れたシグ。

片手で水色の綿菓子を持ってぱくり、ぱくりと小さな口で噛り付いていたときだった。


「…それ、美味しそうだねぇ。お兄さんに一口くれない…?」


突然、前方から歩み寄ってきた銀髪の背の高いお兄さんにシグの持っている綿菓子をねだられたのだ。

いきなりの出来事に思考が一時停止。口を開いたまま、ぽけっとお兄さんを見るしか出来ないシグ。

何の反応も起こさないシグの小さい背に合わせて青年はしゃがみ、視線の高さや距離を対等にした。

さっきよりも間近になった青年の穏やかな声音と表情に少し安心したシグはやがて緊張を解き、青年に食べかけの綿菓子を差し出した。


「ふふ、ありがとう。思った通りの良い子だね…。」


綿菓子を受け取ると、シグがすでに口付けていた位置をぱくりと口に含んだ。


「…おいしい?」

「うん、美味しいよ。…そうだ、お礼にクレープでも買ってあげよう。」

「わーいっ。」


綺麗な顔のお兄さんはまんまと小さなシグを手中に収め、足早に商店街を後にした。




「あぁ…可愛い、ふにふにしてる…乳臭い柔らかーいっ。」

「ふにふにー…。」


シグの胸に顔を埋めてぎゅっと抱きしめれば、柔らかくて温かいふにふにしたものがモフッと顔を包み込んでくる。

変態ショタコン野郎レムレス…至福のひと時。

実は、彼は世界を股にかけて飛び回るエリート中のエリートだった。仕事の為ならどんな国にも自家用機でスピード出張し、完璧に仕事を熟して帰ってくるという…。どこの企業の社長も喉から手が出るほど欲しい人材なのだそうだ。

だが天才である彼は少し変わっている…。変わっているのは見た目ではなくて趣味。それは、“年端もいかない可愛い少年”が、大好物だというものだった。仕事をしてあげても良いけどその変わりに高い給与と可愛いらしい少年を頂戴と言われてしまえばどこの社長もお手上げ状態で、それだけはご勘弁をと床に頭を擦り付け土下座をして仕事を頼むしかなかった。

しかし、彼の貯金はもう一生楽して過ごせるくらいまでたんまりと貯まってしまい、それならば“もういっかぁ”とあっさりエリート業から足を洗って今はのんびりと可愛いらしい少年を見物したり写真に収めたりして隠居生活を楽しんでいるのだ。

そして今日、今まで自分が追い求めていた愛らしい美少年をついにゲッツ。持ち前の整った美顔で近付きクレープを餌に見事、人生初のしてはいけない誘拐に成功したのだった。


「…くれーぷ…?」

「そうだよー、今からお兄さんが買ってあげるからね〜。」

「うんっ。」

「ふふふ。はぁはぁ可愛い良い子だ〜…!…そういえば名前まだ聞いてなかったね。お名前は何ていうのかな?」

「んー…、しぐ。」

「シグ君って言うんだね!僕はレムレスだよ。」

「れむれしゅ。」

「萌えっ!」


ブハッと鼻血を噴出しよろめきながらも血をハンカチで拭い、クレープ屋さんのある公園までシグを抱えて移動して行った。



「さあシグ君。どれが良いかな〜?」

「うーん…、…これっ。」

「生クリームチョコバナナって…僕を煽りすぎじゃない…?」

「?」

「何でもないよ!これ二つ下さい。」


ここに来てレムレスはようやくシグを腕から解放。それはクレープを二つ受け取るための仕方のない行為だった。


「シグ君、そこに居てね。絶対どこにも行っちゃダメだからね?」

「はーい。…あっ、ちょうちょ…まてーっ。」

「シグくぅーんっ!!」



目の前に現れた蝶々に興味を根こそぎ奪われたシグは両手を空に浮かぶ蝶々に伸ばして公園から走り去ってしまった。


「…あぁ…シグ君がっ…!」


直ぐにでも追いかけたかったが、既に注文していたクレープのお代を払わなければいけない事を思い出すとその場に留まった。






「ちょうちょ…まてぇー。」

ひらひらと空に舞う蝶々を追いかけてシグは街の大通りに差し掛かっていた。人込みを掻き分けて交差点を横断し、蝶々を捜していたところを…


「…つ、捕まえたっ…!」

「わーっ…。」


後ろからぐいっと身体を持ち上げられて宙に浮かんだシグ。


「あ、れむれしゅー。」

「勝手にいなくなっちゃ駄目って言ったじゃないかっ。んもう!」

「ごめんね。」

「あぁ…!素直に謝れるなんて…本当に良い子だねっ。お家に帰ったら僕と一緒においしいハンバーグ食べよう?」

「はんばーぐ好きっ…。」

「おい、そこのロングコートを着た変質者。止まりなさい。」

「え、えっ…?まさか僕のことじゃないよね?」

「ロングコートを着て幼児を連れているおまえだ。」

「あー、おまわりさんだぁ。ぼうしかっこいいー。」

「おぉ、なんと愛らしい…。よしよしおまわりさんだぞぅ。」



赤い髪に眼鏡をかけた巡回中の警察官は不審きわまりないレムレスからシグを奪いとって抱き上げる。すると幼さ故に警察官にほんの少し憧れていたシグは警察官の帽子を小さな手で掴み取って、それを夢中で眺めた。そんな全く悪意のないシグの無垢さ、愛らしさを目の前にしてデレッとだらしない緩みきった表情を浮かべる警察官。

あの威厳に満ちていたキリッとした顔が台なしになってしまったが、呼び止めたレムレスにはしっかりと職務質問を始めた。


「単刀直入に言うぞ。貴様、誘拐しているのではないだろうな?」

「誘拐だなんてとんでもないよ!ぼ、僕たち兄弟なんだ。…ね、シグ君っ。」

「れむれしゅっ。」

「……本当なのか?」

「本当だよ!」


とは言っているものの、実は内心冷や汗をかきまくっているレムレス。こんなに動揺してしまっている自分を感じるのは久しぶりだ…なんて思っている場合では無いのだけれど…。危機的状況に陥ると人間は冷静になるという噂を耳にしたことはあるが、それはどうやら本当のようだ。




「ああっ、シグちゃん!やっと見付けたよー。おまわりさんと遊んでたんだねっ。」

「…まぐろおにーちゃんっ。」


背後から聞こえてきた明るい声にシグはぴくっと反応を示して、瞳を輝かせながら確かに“お兄ちゃん”と言った。


「…ほう…。お前とこの子は兄弟ではなかったのかな…?」

「あ、あははは……。」


警察官は横目でじろりとレムレスを睨み付けると、こちらはびくっと過剰な反応を示し引き攣った微笑みを浮かべてだらだらと大量の冷や汗を流し始めた。


「…ちょっと、駐在所まで来てもらおうか。」

「えっ、ええぇー…。」

「れむれしゅ、ばいばーい。」

「シグくぅーんっ…。」


レムレスが着ているコートの襟首をむんずと掴んで警察官はすぐ近くにある駐在所までレムレスを連行していった。


「…じゃ、もう帰ろうか。シグちゃん。」

「うんっ。おんぶしてー。」

「はいはーい!」


唐突に始まったシグの初めてのおつかいもなんとか終了し、帰り道は大好きなまぐろに背負ってもらって家へと無事に帰って行きました…。




END



(おまけを考えているので後日UPしたいと思います)

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