ハ
□Mars
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「火星は赤いから暑そうに見えるだろ?だけどあれはただのサビ。実際表面温度は余裕で氷点下いっちゃってるんだぜ?」
ボリスに得意げに言われたアリスだが、それも承知の上だった。しかし、これから先に続く言葉が全く予想できない。…否、一番に思い浮かんだ言葉は「アリスへの愛は冷めてしまった」という言葉。アリスは、それこそ絶対零度の中に立たされた気さえし、背筋が凍った。
私はこのまま捨てられてしまうのだろうか。
一瞬にしてそこまで行き着いた思考回路を表に出さぬよう、慎重にボリスへ答える。
「…ええ、知っているわ」
「アリスは、俺のそんなクールなとこに惚れたんだろ?」
ボリスは更に距離を寄せ、耳元で低く囁く。
心臓が跳ねた。この猫は急にこんなことをするからいけない。先程の不安が一瞬にして飛んでいくほどどきどきしているのが分かる。
…ここの住人は心臓の音が好きだ、なんて言う人も多いがそんなものよりもっともっと心地よい音だった。
きっとこんなことを思うのは、彼に熱い愛情を持っているから。
「そうね。あなたは火星に似ているかもしれないわね」
太陽のように一瞬で燃えさせるわけではない。
火星のような低温でじわりじわりと確実に火傷を負わす。
そうして私をあなたから離れられなくさせていく。
fin...
→あとがき