□飴玉の行方
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爽やかな風が吹くある晴れた日、旭(あさひ)は蒼く染まる木々の下を軽い足取りで歩いていた。
それも鼻歌なんて、歌いながら。

「今日はやけに上機嫌だな。何かあったのか?」

けだるそうな声に旭は足を止め、くるりと振り返ると、そこにはまた、けだるそうな雰囲気を纏う青年が立っていた。
ブラッド=デュプレ。
これがこの青年の名だ。
今立っているこの地の主で、旭が世話になっている人物である。


もともと旭は、この世界…ハートの国の者ではない。
だが、辛い過去だけを元の世界に残す旭には、今ここは幸せの場所でしかない。
ただ、見ず知らず場所へ舞い込み、事態を飲み込めなかった旭に、最初に手を差し伸べたのが、ブラッドであったのだ。
そんな理由で、今はブラッドを中心とするマフィア、通称、帽子屋の領土に滞在させてもらっている。



「ブラッド!!」

「一人でお散歩かな?…いやいや、こんな晴れた日に散歩とは、元気なことだ。私は眠くてかなわない…」

くわぁ。とひとつ、けだる気な欠伸をし、これまたけだるそうな歩みで、こちらへと寄ってきた。


こんな主人ではあるが、いざという時は煌めく…らしい。
ブラッドの腹心であるエリオットはそう言うが、正直見たことがないので、旭はよく知らない。
時たま、多分機嫌が良くない時なのだが、冷たい空気を放つことは、共に生活していく中で分かった。
それに、気分屋で紅茶好きで、昼間は働かないことも。
ただ旭は、そんなブラッドが嫌いではなかった。
いや、むしろ少し好きなくらい。
なんやかんやで仕事はしているみたいだし、紅茶のことも、あそこまでいけば尊敬の域だ。
見目は秀麗だし、頭も切れる。
自分を拾ってくれた恩のようなものもある。
そして何より、毎日を楽しく過ごさせてもらっているのだ。
今まででは、このようなことが起こり得なかった旭とって、ブラッドは好感度は高かった。
もしかすると、人に好感を持つこと事態が初めてかもしれない。

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