□血
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そう、あれはいつかの夢。
分かるはずなのに、はっきりと顔を思い出せない。咄嗟に彼の名を呼ぼうとしても名前が浮かばずにそのまま口を紡ぐ。

分からないのに知っている、貴方は誰?

必死に両手を伸ばして彼を掴もうとするけれど、掴み損ねていつも目が覚める。そして何故か胸の奥がぐっと絞まる感覚がして無性に泣きたくなるのもいつものこと。




目が覚める度に襲うこの感覚が始まったのは約一年前の春だった。確かあの日は天気が良くて、つい庭の木の下でうとうとしてしまった。そして随分と長い間寝ていた気もしたが、大して時間は経っておらずとても奇妙な経験をしたものだ。夢を見ていたように思うが今となっては忘れてしまった。…ただ、見たかどうかも定かでない夢なのに
"忘れてしまった"と思うと目覚めるときと同じ胸の痛みが起こる。

誰かに責められるような、それでいて悔い、謝罪しなければならないという意識に捕らわれるようなひどく虚しい感情が身体中を駆け巡り、呼吸が止まりそうになる。思考が全て遮断されるのに、朧気な何かが流れる。しかしそれが理解出来ない。



…今日はやけに症状が酷い。
気分転換をしよう、とアリスはふらふらとした足つきで庭に向かった。




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