薬
□距離
2ページ/3ページ
すうすうと心地のよさそうな寝息が、リビングの乾いた空気によく響く。
「まったく・・・」
座木は大きな溜め息をひとつついてからその場にしゃがみ、秋の頭をそろりと撫でた。
日の光に透けたセピア。さらさらとした秋の髪は座木の長い指をするりと抜ける。
いとも容易く逃げていくそれは、まるで秋のようだった。否、髪の先まで秋自身なのだ。
捕まえようとしても、追いつこうとしても、そうさせてはくれない。
壊れそうなのに、強い。
その強さ故に、この人は一人でも生きていけるのだ。今までも、これからも。
遠い人。
何時までたっても縮まらない距離。
しかしこの人は後ろ髪なんて引かせてはくれないのだろうな、と思った時寂しさを覚えた。
「・・・置いて行かないで下さい」
座木は大きな手でもう一度だけ頭を優しく撫でた。
fin...
あとがき→