□秋の香り
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心地よい秋風が、どこからか甘い金木犀の香りを漂わせる午後2時。
太陽の光は朝晩の冷え込みを忘れさせるほどの暖かみを帯び、近隣の家の窓ガラスの反射でキラキラと輝く。
そして目の前にいる少年の顔は、それ以上に煌めいていた。
零一は、この輝かしい笑顔が目にはいった瞬間にドアを力いっぱいに引いたが、見かけによらない怪力と悪徳商人顔負けの素早い脚の動きに完敗した。

「くそっ…!!秋!!いったい今日は何の用だ!!」

秋は零一が少し力を抜いたのをいいことに、平然と室内へ入り込んだ。

「これ。ザギからのお裾分け」

いつものごとく勝手に冷蔵庫を片手で漁り、もう一方の手で包みを持ち上げた。

「…おう。座木さんに御礼言っといてくれ」

「ゼロイチ、持ってきた僕には御礼は??」

秋は冷蔵庫の戸を閉め、腰に手をあてた格好で零一の前に立った。それはまるで、小さい子を叱る母親のように。

「なんでお前に礼なんか言わなきゃいけねえんだ!!」

「…まったく、これだからゼロイチは。人に御礼を言えなくて、バイトが務まるわけ??」

零一はうるせぇと怒鳴ったが、すでに秋の耳には入っていなかった。

「…それよりもさ、ゼロイチ。今日何の日か分かる??」

秋の問いかけに、零一は居間にあるバイトの予定がびっしりと書かれたカレンダーを見た。

「そういや今日はハロウィンだな」

「That's right!」

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