薬
□Afternoon
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「……っ!!」
「またか、ザギ。」
ソファに寝転がっていた秋は、本から視線を外し座木を見た。
「…すみません。もう少しで出来上がりますから。」
座木は顔を上げ、困ったように微笑んだ。
手の中にあるのは、糸の通った針にクマ柄の布。
彼が一番苦手とする裁縫の真っ最中だった。
「ほんと不思議なヤツだな。なんで他の家事は出来るのに、裁縫はできないんだろうな。」
すると座木ははにかみながら、なんででしょうね。と呟いた。
「今、何回指刺した?」
「14回です。」
「ゴシューショーサマ」
秋はソファから立ち上がりながら、労いの言葉を言う。
そして座木の目の前に座り直して、手を出した。
「貸してみ」
手を止めた座木は
「秋がやるんですか?」
と少し驚いた。
「違う。手の方。」
「…?はい。」
するとその手を、華奢な秋の指が掴み、座木の人差し指を自分の口にくわえた。
「なっ…!!秋っ…!?」
突然の出来事に慌てた座木は、手を引いた。
すると特に抵抗もなく、口から抜ける。
「消毒完了ー」
悪戯な笑みを浮かべた秋はそう言うと立ち上がり、あっという間にリビングを出て行ってしまった。
…こういう秋の突発的な行動には、未だに慣れない。
秋の居なくなった部屋では、残った温もりが指先の痛みを消していった。
fin..
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