□甘い誘惑
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そんなことをひとり、悶々と考えていた座木は秋の「おい。」という呼びかけで、はっと我に返る。

「なんだ、僕の贈り物はご不満かな?」

「いえ、滅相もございません。しかし秋にいったいどのような真意があるのかと、少々不安がよぎりまして。」

「そういうことはもっとオブラートに包んだらどうだ?」

「…まさか秋にそんなことを言われるとは思ってもみませんでした。」

「どういう意味だ。」

「そのままの意味ですよ。」

そう言うと秋は不敵に笑って、「減らず口。まったく誰に似たんだか。」と肩をあげてみせるので、「そうですね、身近にああ言えばこう言う、口の達者な方がいらっしゃるので。」と返した。

「へえ、誰だろうね。顔が見てみたい。」

秋は知らぬ顔して、座木に差し出したはずのチョコをひとかけら摘んで自らの口に放る。座木はそれを何気なしに眺めていたのだが、いつの間にか身を寄せた秋が唐突に座木の首に腕をまわし、深く口づけた。

「…え、っん」

秋は、座木が驚いた拍子に開けた口に舌をすべり込ませて、チョコを座木の口内へと押し込んだ。それは二人の熱で溶け合い、こくりと唾液を飲み込めば甘くむせ返るような味が広がる。


「ぅ、んん…っ」

そのまま秋にちゅ、と唇を吸われればひどく倒錯的な感情が溢れ出し、快楽が座木を襲う。それはとても心地よく、もっと欲深く欲してしまう。
しかし絡めていた互いの舌を秋はするりと解き、座木の顔を見上げた。

「…知ってるか?チョコには媚薬効果があるんだってさ。」

秋はふっと意地悪く笑ってみせ、座木の口端をぺろりと舐めた。そして箱からもうひとかけらのチョコを摘み出し、座木の口に指ごと突っ込む。

「口の中でチョコを溶かすのは、キスをするより脳が興奮するという。それに幸福感をもたらす脳内物質、エンドルフィンが放出されて、恋のときめきのような緊張を感じるそうだ。」

座木が解けたチョコを唾液と共に飲み下したことを確認し、咥えさせていた指を引き抜くと、ゆっくりと座木に体重をかけて押し倒した。セピアの髪がふわりとした瞬間、彼の香りが鼻をくすぐり思考を遮断した。くらくらする。

「あ、き…」

再び唇を合わせ、お互いを求め合う。何度も何度も。それはとても甘く、夢中に求め続けた。


「うん、ザギ、それでいい。」

はあ、とため息にも似た息を吐く座木を見て、秋は満足そうに呟く。潤んだ瞳でぼんやりとした座木の頬を優しく撫で、慈しむような視線を絡める。

「媚薬のせいにして本能に任せればいい。たまにはいいだろう?こういうのも。」

秋はくすくすと笑って、また口づけた。
神経を麻痺させ、感覚を鈍らせ、我を見失う。それはひどく甘い誘いだった。



fin...
→あとがき

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