□二人協定
2ページ/5ページ



どのくらい前のことだったか。その日は秋と二人で朝食をとっている最中だった。不意に秋が神妙な面持ちで「話がある」などと言うものだから、座木も箸を置いて話を待った。

「お前とひとつ、協定を結びたいんだが…どうだろう?」

秋が口角を上げて不敵に笑う。そして悪い話ではないよ、と付け加えた。

「…秋からそんなことをおっしゃるなんて、珍しいですね」

「まあ、たまにはそんな日もあるさ。僕だってただの妖(あやかし)だ」

「お受けしましょう。私に出来ることなら何なりと」

「いいのか?そう易々と引き受けて。まだ内容も話してないのに」

そう問われても秋に対する座木の返答など最初から決まっている。元々秋に逆らうつもりがないのだから。


「かまいません。…で、内容はどのようなものですか?」

きちんと膝に手を乗せ秋を見やるとひとつ間を置いて秋が口を開いた。

「毎朝、僕に味噌汁を作れ」

「……は?」

「この条件をのんでくれるなら僕もひとつ、ザキの言うことを聞こう。悪くないだろ?」

先ほどの面持ちはどこへやら、秋はけらけらと笑った。軽い約束ごとのようだ。しかし秋が小さなことでも借りを作るのは本当に珍しいことだった。(座木に言わせてみれば、秋からの頼みは強制しない命令のようなもので、絶対服従であるし見返りなど求めていないため借りなど出来ようはずもないのだが。)とりあえず、借りを作ってでも「毎朝味噌汁が食べたい」ということらしい。

「分かりました。」

座木は呆れ半分安心半分の溜め息をついて承諾した。

「で、ザギはどうする?」



次へ
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ