薬
□二人協定
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梅の花が色鮮やかに咲き、緩やかな風に乗った甘い香りが鼻腔をくすぐる。紅白の梅はまるで春の訪れを祝っているようだ。しかし春とは言うものの、昼間の日差しが暖かいだけで朝晩は身を震わせる程に寒い。
そんなある朝。
「兄貴、あの…」
リベザルはキッチンに立つ兄貴分の背を見上げて問う。そうすれば彼はくるりと振り返りやんわりとした笑みを浮かべる。
「どうしたの?リベザル?」
「あの!別に嫌とかそんなのじゃないんですけど…!」とリベザルは必死に弁解した後、
「どうして毎朝、お味噌汁を作るんですか?」
と少し首を傾げた。そう、深山木家の朝食はお米の時はもちろんパンの時でさえ味噌汁なのである。問われた青年…座木は目を丸くしてパチパチとしばたかせた。彼の手には、渦中の味噌汁を注ぐためのおたまが握られており、小鍋から掬おうとしたまま動きを止める。
「ほ、本当に嫌いじゃないです!むしろ兄貴のお味噌汁大好きです!!ちょっと何でかな、って思っただけで…」
座木の反応にリベザルは慌てて弁解を重ねる。すると、おたまを握っていた座木の手がリベザルの頭に優しく乗った。
「ごめんね。別にリベザルを疑ってるんじゃないよ。少し驚いただけだから」
座木はしゃがんでリベザルに目線を合わせてからにこりと笑った。そしてリベザルが安堵の表情を浮かべたのを確認してから
「リベザルと会う前にね、秋に言われたからだよ」
と優しく答えた。