Short Story

□ただ、君に伝えたくて
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「神田」


『…何だよ』


ゴーレムから聞こえてくる、君の声。

それだけで、妙に落ち着く自分がいる。


「ホント、そんな喋り方しかできないんだね」


『あ?』


意味がわからない、という風に、彼は不機嫌そうな声をゴーレムにのせていた。

けれど、私は言葉を止められなくて。

止める、時間なんて無くて。


「好きだよ、神田」


君は私の事なんて好きじゃないだろうけど。


声が、かすれそうになる。

涙が、零れそうになる。


「無愛想な喋り方も、表情も、声も。
任務の時の、真剣な表情も、真面目さも。
全部、大好き」


ゴーレムの向こうからは、何も聞こえてこなくなった。

怪訝に顔をしかめている君を思い浮かべて、思わず笑いそうになる。


ああ、こんな状況でも、君は私を落ち着かせてくれるんだね。


「ごめんね、神田」


私は震える唇に、声をのせた。

今までこらえていた涙が、ゆっくりと頬を伝った。


『まさか、お前――』


ブチッ


向こう側で、焦ったような声が聞こえてきた。

それを合図に、私はすぐさま、通信を途絶えさせる。


ごめん、もう、これ以上は。

さよならも言えない、弱い私。


ゴーレムが通信を受け取るが、私はそれに応えない。


エクソシストとしての私は、もう既に存在しないのだから。


過去と未来と現在を繋ぐことの出来るイノセンス。

過去を見、未来を見、そして、現在に戻る。

攻撃の全く出来ないイノセンス。

私はそれが、大嫌いだった。


でも、今だけは感謝している。

だって君に、想いを告げる時間をくれたんだから。


君に想いを告げることで、私は君を傷つけることしかできないけど。

でも、君は優しいから。

ぶっきらぼうでも、優しいから。


最期の私の我が儘を、押しつけたって、いいよね?


罪悪は残るけど、それ以上にどうしようもなくて。

私は、流れ続ける涙を拭くことすらせずに。

ただ、身体に刻み込まれたイノセンスを、発動し続ける。


息が苦しく、体が疲労していく。

人間の私の身体が、悲鳴を上げていく。

これ以上、イノセンスを発動するのは無理だ。

きっと、すぐに意識を失ってしまうだろう。


君に会えて良かった。

君に会えただけで、私の人生は充実していたよ。


「大好きだよ、神田」



ただ、君に伝えたくて



届くはずのない言葉を
私は最期に呟いた




-End-

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