novel2

□貴方に捧げる賛美歌
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季節は確実に移り変わっていく。

小さかったアイツがいつの間にか大分男前に成長して。
(俺に似たなぁ、と姉貴に言ったら全力でド突かれた)

そして、いつの間にか教師と生徒。


そして、いつの間にか…




「なんで彼氏が出来るんや…」


男同士…。いや、それは今は置いておく。

それに蔵ノ介は可愛え。
そんなん赤ん坊の時から知っとる俺の方が分かってる。

ていうか俺の方が千歳よりアイツの身体を隅々まで(単純に風呂場とかで)見ている……ハズだ。

いやいやいや、絶対そうやって。
今日も朝から同伴登校やったけど、そないな訳あるかい。


……………。


あぁ、想像したら無性に千歳に腹が立ってきた。

よし。
次の1組の授業にアイツがいたら集中攻撃してやろう。




(あぁ、せやけど)


ふと、窓の外に視線をやる。
校庭に目を向けると、今はもう青々しい葉を付けた木々が見えた。
ここ、四天宝寺の校庭は地元じゃちょっとした桜の名所として有名だ。

今では緑に囲まれたそこだったけれど、春はそれはもうキレイな花を咲かせる。


そんな桜に囲まれたテニスコート。
そこでアイツラを引き合わせたのも、俺だった。


九州二翼の話は知っていた。
千歳の目の事も。
獅子学の環境の事も。


ずっと、大阪に来ないか?と呼び続けたのも自分だ。

テニスがしたい。好きだ。と誰にも言えなくなってしまって全てに諦めて心を閉ざす千歳が放っておけなかった。

きっと、俺だってあの日蔵ノ介の言葉がなければそうなってしまっていただろう。
あんな想いはするな。

お前の求める場所は、ここにだってあるんだ。
そう叫び続けた。


─やっと千歳がこの地を踏みしめた時、ここの桜は満開だった。



「転入生?」

「おー。今日からうちのテニス部の仲間や。いっちょ頼むわぁ、部長!」

「頼むって言うたかて…肝心のそいつが居らんのやけど…?」

「あー…それが、なぁ…」


カラン、



二人でため息を吐いた。
その直後、背後でした独特の音。



「あちゃー。遅れてしもたと…そちらさんは、テニス部ん人?」












「……………」


ますます思い出したらなんか空しい。
あの頃はまぁまだ俺への当たりもそんなにキツくなかったのに、その後金太郎が入学してアイツの意識は完全にそちらに持っていかれる。
アイツラは今では端から見ればただの親子だ。

そして俺に対しては軽く反抗期だ。
この前なんてオッサン臭いと言われた。
泣くかと思った。

ホンマ、あの天使は何処?

凄く複雑だ。






「あれ?オサムちゃん?」


いつの間にやら窓にへばり付いていた俺の背後に掛かった声。
振り向くと昔は可愛かった甥っ子がいた。


「んあー…って、白石やないかぁ」

「………何で窓とイチャコラしとるんや。不審者か」

「ちゃいます!」


見て見て!この態度!



「……ちゅーか、お前授業中やろ」

「うち今自習やねん」


いや…そういう問題じゃない、多分普通の教師ならそう言う。
しかし自分だってフラフラしていた身、あまり口うるさくも言えまい。

けれどまぁ建前だけは「こら」と言っておく。
額に軽くチョップするとちょっとだけ不満そうな顔になった。
この顔はあんま変わらない。


「…ん?てかなんや、その持っとるの」

「あぁ、これ?」


白石が手に持っていたDVDのディスクを持ち上げる。
ケースにもディスクにも何も書かれていないそれ。

…おぉ!


「…まさか…、エロビ!!」

「………一辺毒手食らわされたいん?」

仮にも教師やろ!とこめかみに青筋を立てた白石がこちらを凄い顔で見る。
言葉で表すなら、嫌悪とかそんな感じの。


「あーもー…何なんこのまるでダメなオッサン。略してマダオ」

「ちょっとしたお茶目やんか!」

「キモいっすわぁ」

「財前の真似は止めて!それ地味にキツいから!!」



しかもあの頃と変わらないままの笑顔でそんな毒を吐く。
泣いてもええか。


そんな俺(半泣き)に凄まじく長いため息を吐きつつ、白石はもう一度ケースを目線の上まで持ってきた。


「東京、青学の試合。小春に焼いてもろた」

「青学って…あの青学か…?」


そや。と白石が頷く。



「時間はいくらあっても足りへん。俺は出来る事をせな」


「?」




「俺は絶対勝つで」

「うん?」

「部長やもん。俺が確実に勝ってチームに白星刻み付けな部員は着いて来んしな」

「………」



「それに、」


「それに?」


珍しく、照れ臭そうに笑うから首を傾げてしまった。




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