text〜古キョン

□コイゴコロ【完結】 ☆☆☆
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古泉が帰る支度をしている間、俺は窓の外を眺めていた。
吐く息が窓を白く染める。
何度も息を吐き、そして白さが元に戻る頃…
古泉の姿が映って見えた。
窓に映った古泉は俺に笑ってみせた。
本物だな。

*  *  *

最近、日が落ちるのが早くなった。
部活を終える頃にはいつも真っ暗で。
もう十二月だもんな。

俺達はいつもの下校ルートを肩を並べて歩いた。

「古泉。お前がここへ来てどれぐらい経つんだっけ?」
「えっと、七ヶ月ぐらいですかね」
「そうか…」

平凡な俺の生活が奪われて七ヶ月って事か。
まぁ、最近では当たり前になってる訳で。
怖いねぇ、全く。

古泉との下校も日課となり、よく考えてみると一番多く会話を交わしているのも古泉で。
だが、谷口や国木田とは違う存在感なんだよな、こいつは。

「随分近くなったもんだな」
「え?」
「お前との距離」

俺の言った言葉に、古泉は満面の笑みで答えた。
そんな嬉しそうな顔をするな。
お前を喜ばそうと思って言ったわけではない!
って…弁解はムダだな。

「あなたにそう思ってもらえてるなんて、幸せです」

お前の幸せは随分安上がりだな。
古泉は上機嫌で俺の真横をピッタリとついて歩いた。
で、何故そんなに俺に近付く!
肩当たってるぞ、古泉!

「近いっ!」
「?」
「顔が近いんだよっ!もう少し離れて歩け!」
「すみません。でも、そんな気分なんです。ダメ…ですか?」
「ったく…好きにしろ」

俺たちは尋常ではない距離(俺の感想)で歩いた。
手の甲が当たる度に古泉に手を握られるんではないかとドキドキした。
いや、困るからドキドキしたんだ。
というか、そんな事あるわけがない。
俺の頭は沸いちまってるな、全く。
隣に居るのは古泉って「男」だ。

「あの…」
「なんだ?」
「マンション、着きましたよ」
「おう…」

俺の立ってる位置はマンションの入口を数歩過ぎていた。
これじゃあ、頭をシャキッとさせろと言われても仕方ない、か。

*  *  *

部屋に着くと、古泉はいつものようにコーヒーを出してくれた。
いつものように。
あぁ、そうさ。
俺は結構こいつの家に来ている。
誘われたら寄り道している。
特に断る理由もないし帰り道だしな。

古泉は俺の隣に腰掛けた。
いつものポジション。
なのに…
今日は緊張する。
何故だ。

「なぁ、古泉」

沈黙に耐えられなくなった俺は、何となく声をかけた。

「最近のお前、なんかおかしいぞ。疲れてるんじゃないのか?閉鎖空間に行く事多いのか?俺、ハルヒの事イラつかせちまってるか?」

一方的に喋り終えて隣を見ると古泉は驚いた顔を見せた。
特におかしな事は言ってないと思うのだが。

「な…なんだよ」
「いえ、あなたがそこまで僕の事を心配してくれているとは思っていなかったもので」
「そ…それはだな」
「はい?」
「俺は両方知っているから、で」
「と、言いますと?」
「だから、高校生である古泉一樹と超能力者である古泉一樹を、だ」

古泉はまた驚いた顔を見せた。
あぁ、ハルヒ達にも目の前のこいつの顔を見せてやりたいもんだねぇ、ったく。

「キョンくん…」

まただ。
お前、今日二度も俺の名前呼んでるぞ。
出血大サービスですか、古泉よ。
って…何のサービスだ。
なんて、一人ツッコミをしている場合ではなかった…。

「あなたって人は。どれだけ僕の頭の中を掻き回すおつもりですか」

オイ、待て。
何を言っている。
人の頭の中を散々掻き回しておいて。
その言葉お前にそっくり返してやりたいもんだ。
いや、だが言わん。

「誰がお前の頭の中を掻き回してるって?身に覚えないが」
「あなたは、僕の決意を簡単に揺るがしていく。歯止めが利かない程に」

古泉はまた、俺を抱きしめた。
2日連続で男に抱きつかれるとはねぇ。
どうなってんだ?俺の青春!
で、何故俺はコイツを突き放せないんだ。
あぁ、忌々しい。

「古泉、昨日も言ってたその誓いとやらは一体何だ?俺にはさっぱりわからん」

古泉の腕にさらに力が入る。
苦しいぞ、古泉!
突き放せよ、俺!

「僕は、許されるのでしょうか」
「誰にだ?」
「涼宮さんに」
「何故そこでハルヒが出てくる」
「それは…」

古泉は抱きしめるのを止め、俺の目を真っ直ぐ見つめた。

「あなたが神に選ばれた人間だからです」

やれやれ、またその話か。
俺はハルヒが神様だなんて信じないって言っただろ。

「古泉。仮にもハルヒが神だとしてだ。お前の誓いとやらを俺が黙っておけば、許すも許さないもないんじゃないのか?」
「しかし…」
「言ってみろよ。じゃなきゃ、わからん。それに、毎日そんな顔されたんじゃ憂鬱でならん」

古泉はソファの上で何故か正座した。
膝の上で握りこぶしをギュッと作って、これでもかと言うくらい力を入れている。

「人生最大の告白なんです…」

いやいや、そんな大袈裟な。
お前の人生そんなもんなのか?

「そうかい。言ってみろよ」

膝の上でズボンをギュッと握った古泉の手を、俺は見つめた。
長い長い沈黙。
でも、俺はこの沈黙に耐えた。
古泉から発せられる言葉をどれだけだって待とうと思ったからだ。

「好きなんです…」

ん?今なんて?

「誰を好きだって?」
「えっと…あ…」
「ちょっと待て、古泉!」

俺は咄嗟に古泉の口を手で押さえた。
そうするしかなかった。
だってこいつは…

「先に聞いておきたい事がある」と言って俺は口から手を離した。
息苦しかったのか驚いたのか、古泉は目をまん丸にして俺を見ていた。

「それは、今日話してた恋バナと関係あるのか?」
「はい…」
「お前の誓いとやらは、俺に関係あるんだよな?」
「ええ…」
「心の準備が必要な内容か?」
「かなり…」

俺の勘が当たっているなら、一大事だ。
古泉は、俺に告白しようとしているんだよな、たぶん。
実は、薄々気付いていた。
こいつの俺に対する距離感は半端なく、昨日の一件で確信に近いものを得た。
何故ハルヒの名前が出てきたのかはわからんが、俺の返答次第では…
神人とやらに何らかの影響があるのかもしれん。
やれやれ。
まぁ、そんな事はどうでもいい。
俺は素直に答えを出したらいいんだろ?って、答えねぇ。 
生まれて始めて告白されるってのに、相手は【男】ですかい。
俺の人生大分狂っちまったもんだ。
そう考えるとこれは、ハルヒの願望…な訳ないか。
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