text sample〜シズイザ

□千年初恋
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P22〜

「ねぇ新羅。君の研究はどこまで進んでるの?」

シズちゃんと思いが通じた俺は、ふと新羅達も上手くいけばいいのに、なんて過去の自分が聞いたら腰を抜かすような事を思いながら、特に用事もなく新羅宅を訪れていた。

「急にどうしたのさ。まぁ、全く進んでない訳じゃないけど、実験のしようがないから進められないっていうのが正しいかな」
「実験?」

新羅は妖怪になるための手段をどうやら見つけたらしい。
しかし、それが果たして可能なのか試しようもなく、ストップ状態のようだ。

「その方法さぁ、難しいの?」
「難しいというか、妖怪の血液を必要とするんだ。でも、調べによると血液を分け与えた妖怪はその代わりに人間になってしまうらしい」
「え!人間に?」
「だから、セルティの血液は使えないんだよ。彼女が人間になってしまっては意味がないからね」

その方法がもし本当なら、俺が血を提供したら、人間になれるかもしれないって事か。
俺には人間になりたい理由が一つあった。
それは、シズちゃんと俺が結ばれるために必要な事。
妖怪同士にはいろいろな禁忌があって、どうやら俺とシズちゃんは結ばれてはいけない関係らしい。
まぁ、狼と猫が結ばれるなんて想像つかないけどね。
俺とシズちゃんが一緒に人間になる事が出来たら、結ばれる事も可能になる。
その代わりに、永遠の命は失うかもしれないけど、それでも彼と結ばれるのであれば、短い時間でも幸せになれるような気さえする。
それ程に、俺はシズちゃんの事が好きみたいだ。

「俺の血、提供しようか?」
「え?臨也の血液を?それはありがたいけど、この方法が可能なのかわからないし、それに…血液は二種類必要なんだ」
「シズちゃんと俺の血で、どう?」
「臨也…」

人間になる代償は大きい。
シズちゃんに、人間になりたいなんて願望はないだろうし、永遠の命を失うのは正直嫌だろう。 
それでも、もし俺との未来を選んでくれるのなら、新羅に血の提供をしてくれるかもしれない。
もしシズちゃんが拒否した場合は…
彼との未来はないって事で間違いない、よね。

「シズちゃんが了承してくれなくちゃ話は進まないんだけど、もし彼がダメだと言っても俺が何とかしてあげるよ」
「臨也、よく考えた方がいい。もしこの方法が成功したら、君は人間となり永遠の命を失う事になる。君達からしたら、人間の命は一瞬のようなものかもしれない。一度人間になってしまえば妖怪に戻る事は不可能な訳で、後悔はさせたくないんだ」
「そうだね。人間の命はすごく短い。でも、妖怪のままじゃ…」
「臨也…?」

シズちゃんと結ばれる事は不可能なんだ。と、俺は無意識に呟いていた。

「君達、うまくいったんだ」
「え?」
「静雄が以前うちに来た時に、喧嘩の後に臨也が必ず現れるだの臨也の差し金かもしれないだの言ってたんだけどさ。それを俺は君からの愛情表現だと思ってたんだよね」
「はぁ?」

ちょっと、シズちゃんそんな事ここで話してたの?
まぁ、その時点では完全に俺はシズちゃんにとって悪者扱いだったんだろうけど、それを新羅は愛情表現って。
俺ですら最近気づいた感情だっていうのに。

「今更隠す必要もないから言うけど、妖怪のままじゃ俺とシズちゃんは結ばれる事は不可能。でも、人間になればそれは可能って事になるんだよね?」
「まぁ、君達が男同士でもその愛を貫こうって言うのなら問題ないと思うけど」
「あぁ、人間界には性別を気にする風習があるみたいだね。それでも、俺は構わない。例え永遠の命を失ったとしても」

シズちゃんに会いに行こう。
そして、彼にこの件をきちんと話して、答えを聞こう。
すべてはそこからだ。

「邪魔したね」
「静雄に会いに行くのかい?」
「うん、ちょっと話をしてみるよ。彼がOKをくれたら、今度は二人で来るから」
「わかった」


続きは新刊で…
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